【2024年問題へ追い打ち】貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案
こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。
私たちの住んでいる国は、国家としてとらえることも大切なのですが、本来は私たちの住んでいる「この町」「この地域」の集まりである、ということがもっと大事だということです。私たちが幸せに暮らすらために、国が住みよい場所になるためには、住民として住んでいる「地方」こそが住みよく豊かな町であってほしい、そんな願いを込めて書いています。
本日は、この度国会で審議されることになった「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」(議員立法)について考えてみたいと思います。(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出されたものです)。
本改正法案は改正貨物自動車運送事業法の付則で2023年度末(2024年3月末)までの時限措置として規定されていた、トラック輸送の「標準的運賃」の告示制度と、運送事業者の違法行為を助長していると認められる荷主企業や元請けの運送事業者に改善を要請・働き掛ける制度が、2024年4月以降も当面継続するという条文に改正されるものです。
トラック運送について
貨物自動車運送事業法は街なかで一般的にみられるトラック運送、特定の荷主の荷物を運ぶ運送業、軽貨物運送という主に三つの運送事業者の規制を定める法律です。前二者は許可制で資金計画、運行管理体制、車庫、休憩施設、資金計画などの要件があり、法令試験に合格した役員を置くなど厳しい条件をクリアしないと事業ができません。軽貨物業は届け出制となり比較的容易に事業が始められます。
しかし、近年の通信販売の増大による輸送需要の増加によるドライバーの過重労働、低賃金などが社会問題にもなっているように経営が厳しくなっているのは、あなたも良くご存知だと思います。今年になって岸田首相は「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において次のように述べています(首相指示)。
現在のトラック業界は戦前から続いている国策会社であった「日通」と単独資本の「ヤマト運輸(大和便)」が2強とされています。戦前の数値を見てみますとトラック運送の事業者数は26,548業者で結構多かったことが分かります。ヤマト運輸の史料をみても「トラック運送業界はまさに、零細企業が乱立する過当競争の状況」と書かれています。1939年の数値で95%は保有台数5台以下の事業者であったということです。
翻って現在のトラック輸送業の事業者数は62,844、中小企業は99.9%とされています。
トラック事業はもともと中小零細企業の参入しやすい業界と考えられますね。したがって、下請けイジメのような状況も起きやすく、利幅の薄い事業であるということになります。朝日新聞も個人の宅配ドライバーの仕事を追って運送業者の事例を取り上げていました。
改正前の法律について
さて、今回の改正の基になる現行法の確認をしましょう。
旧改正については国土交通省のホームページ上で確認ができますので、前回の改正内容を中心にみていきたいと思います。
改正内容は次の通り『改正の概要』で確認できます。
この中で本年の改正に関する点を確認してみましょう。3.と4.です。
荷主への働きかけについて
「国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定の新設」【令和5年度末までの時限措置】
とあります。この主なものは次の通りです。
であるとして、トラック協会では国土交通省の相談窓口への情報提供を呼び掛けています。
現在開かれている国会でも荷主側の過度な要求に関する質疑が行われています。自民党の津島淳代議士の質問です。
具体的にこの問題について解決してほしいということではなく、輸送方法の多様化につながる質問ですが、荷主と運送会社とのコストに直接影響する問題です。それにしても驚くのは、このようなビジネス上の問題に対して法律による規制をかけて企業を守ろうとする国の姿勢です。
また、標準的な運賃については次のように説明されています。
令和3年に業界団体会員に対しアンケートを実施した中に「原価計算の参考になった」という意見もあったのですが、この標準的な運賃は燃料、人件費など具体的な換算係数で運賃を国交大臣が提示し、その金額を参考に荷主は運送料金に対し不当な値下げをしにくくする制度となっています。各地方運輸局が作成しており、時間制、距離制の表をホームページで確認することができるようになっています。
今回の改正の目指すもの
改正貨物自動車運送事業法において定められた「標準的な運賃」と「荷主への働きかけ」については令和5(2024)年度末(3月31日)までの時限措置として「付則」にて規定されていました。これを本年5月11日に自民党の物流調査会が当分の間延長するよう政府に求める提言を策定しました。これを受けて「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で岸田首相が述べていた政策パッケージにも盛り込まれるよう調整が進んでいるとのことです。
さて、今国会で改正する部分を確認してみましょう。
具体的な変更点として来年の3月末日までに「セミナーや各種協議会による周知・浸透」「トラック事業者の法令順守に係る国土交通大臣による荷主への働きかけや要請」がされるように取り組むこととされていたが、現在の進捗状況として「道半ば」であるとして「当分の間延長」することとなります。
これらの施策はなぜ継続されることが必要なのでしょうか。それはまさに物流の「2024年問題」を解決するためとされています。物流の2024年問題は本改正法案のなかで述べるには大きな問題なのであえて取り上げることはできません。簡単に言うと、赤字企業の救済、トラック運転手の労働時間、賃金などの問題の改善のために行われる施策の一環ということだけここではご紹介しておきます。
物流の2024年問題と「標準的な運賃」との関連は下記リンクでご確認いただければよいかと思います。
規制で国民は幸せになれない
法律(規制)の陰に「業界」あり。運送業の規模は13.9兆円(2021-2022年)。郵政は別として2位がヤマトHD(1.79兆円)、3位が日本通運(1.76兆円)となっています。26%が2社で占めているという計算になります。先にヤマト運輸社史をご紹介しましたが、地域のトラック運送は戦前から中小零細企業が担ってきました。しかし現在の物流で戦前と異なる点として、メーカーからの商品流通において倉庫業者が無視できないものとなっています。消費者の手元に届く商品がスーパーへ配送されたり、ネット商品の配送においても、各地域にメーカーで製造された商品を保管している倉庫などから配送されることが多くなっています。
ところで「荷主」とは誰でしょうか? 業界の中では商品の発注を受けた企業となるでしょう。しかし、その「モノ」を得たい人は消費者です。しかし物流関係の各種有識者会議が開かれています。スーパーやメーカーからの出席者は参加していますが、果たして消費者の気持ちを代弁してくれる人がいるでしょうか。そこには実は「消費者」の仮面をつけた物流の当事者しかいないのです。「あなた」という消費者は不在なのです。ここに規制の持つ矛盾が生じます。
さて「トラック事業法」の規制にはどのようなものがあるでしょうか。
などとなっています。トラック事業法の細則としては「貨物自動車運送事業輸送安全規則」および「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」が定められており、トラック事業者はこれらの基準に則って営業を行う必要があります。
これらの規制に違反した場合は懲役、科料、その他行政処分が科せられます。懲役というのは刑事罰ですから、営業関係の違反行為としては相当重い罪となります。しかし、その違反行為が取引関係上引き起こされたとなると、現場の感覚としての責任はトラック事業者ではなく出荷依頼者である「荷主」ということになります。つまり、荷主がトラック事業者に配慮して対等で公平なビジネスを行ってくれないとトラック事業者としてもあえて法を犯してしまうことにもつながるのです。
ところが、あなたもご存知かと思いますが、荷主は「神」のような存在ですから、トラック事業者は無理をして物流を担っているというのが現実です。そこで、前回の改正で荷主がトラック事業者の苦悩を理解して受け入れてくれるように法改正が行われ「標準的な運賃」を国が提示して、運送会社の提示する運賃を支払うよう促すという方策が行われたのです。
トラック事業法の第一条「目的」には次のように記載されています。
「民間団体による自主的な活動を促進する」と書かれていますが、民間資本の自由主義的経済活動を守ることにあるのではなく、あくまでも規制の範囲の中で頑張れよ、という、事実上の政府による価格統制です。そのはざまでトラック事業者も倉庫業者も法律の縛りにがんじがらめに手足を取られあえいでいるというのが実情のような気がします。
もとより、規制として商業活動を縛る権限を国(官僚)に持たせては、問題ばかり起こる典型的な例であると言えるでしょう。
国がすべきことは、荷主に「標準的な運賃」を強制することではなく、
ガソリン税や消費税などの「減税」をして、運送業者のコストを下げることです。
民間業者への規制強化を自分は関係ないからと無関心でいれば、いつか最終消費者であるあなたが「標準的な運賃」を強制されるかもしれないのです。
最後にはっきり申し上げて本稿を終わりたいと思います。
「規制をどのように変更しても国民は幸せにはなれません」
全ての増税と規制に反対します。
参考資料
政府が行う価格統制の結末については、自由主義研究所さんのnoteに詳しく書かれています。ぜひお読みになってみてください。
オーストリア学派経済学者 ミーゼスについて
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