見出し画像

【裁判はイヤ!】ADR促進法の改正案について

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

私たちの住んでいる国は、国家としてとらえることも大切なのですが、本来は私たちの住んでいる「この町」「この地域」の集まりである、ということがもっと大事だということです。私たちが幸せに暮らすらために、国が住みよい場所になるためには、住民として住んでいる「地方」こそが住みよく豊かな町であってほしい、そんな願いを込めて書いています。

今回は、この度国会で審議されることになった「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」いわゆるADR促進法改正案について考えてみたいと思います(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で法案が提出されたものです)。

ADRとは何か

ADRとは「裁判外紛争解決手続き」。裁判をせずに、公正な第三者が当事者同士の間に入り、調停や和解という形でもめ事を解決に導く手続きのことです。我が国では裁判とは三審制により、裁判の判決に不服があれば上級裁判所に控訴できる制度ですが、ADRでは基本的に当事者同士の同意により終了するもので、めでたく同意して終わるか、場合によっては結果として同意に至らず終了するかという結果しかありません。英語では”Alternative Dispute Resolution”  直訳すると「代替的な紛争解決手続き」略してADRと呼びます。

紛争解決といえばまず思い浮かぶのは裁判。欧米では従来、民事訴訟件数が増加する傾向があり、かと言って裁判官の人数が限られているため、当然裁判所はパンク状態。裁判所による司法手続きでは判決が出るまでに時間と費用がかかります。そのため、時間と費用に対する裁判の結果と利用者の満足度がかけ離れたものになってしまいます。そのため利用したいと思っても裁判に持ち込むメリットが感じられない場合は、解決したい紛争も泣き寝入りのまま我慢することになってしまいます。そのためより簡易な方法で解決できる方法としてADRが普及してきたとのこと。そして当事者同士が訴訟による解決を目的としない紛争に関しては、より簡易で迅速かつ(基本的には)費用負担の少ないADRで解決を図ることが一般的となっています。

欧米と比べても裁判の手続きが複雑で長期化しやすく、裁判官の数も少ない日本。以前から「調停」という簡易な紛争の解決手段(司法型ADR)はありました。その他労働問題などにおいても調停や斡旋という問題解決処理ができる制度もありました。しかし、裁判所を通して申し立てをする必要があったり、両者の同席などの手続きが複雑なため、より簡易な方法での紛争解決手続きが求められてきました。そこで裁判所の機能を「民間でできることは民間で」補完する形で、ADR促進法が2007年に施行されました。

裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)の一部を改正する法律について

ADRには、広義的には先ほどの裁判所における調停等の「司法型ADR」の他に、公害等調整委員会や各地方自治体などで調停に関する条例などで定められた紛争解決方法、国民生活センターの紛争解決委員会などの行政機関や行政関連機関が行う「行政型ADR」と、民間事業者が行う「民間型ADR」があります。

今回の改正法案のADRという時はこの3つ目の「民間事業者が設置しているADR」を指します。例えば地域の弁護士会や司法書士会といった士業団体のほか、家電製品や自動車、ソフトウェアなどの業界団体や消費者団体、NPO法人などがあり、各分野の専門的知見を利用できることが特徴です。
ADR法に基づいて「法務大臣の認証」を受けたADR事業者には、一定の法的効果が与えられることになっているのです。現在では全国に170以上の認証ADR事業者があります。

【参考】かいけつサポート民間事業者一覧(法務省による認証ADR事業者)

また最近では民事一般だけでなく、貸金業法や金融商品取引法などの、営業許認可などに直接関係する法律において、それぞれの取引領域で生じた紛争を解決するための「指定紛争解決機関」を設置することが求められています。民間ADR事業者が増加した大きな要因のひとつとなっています。
つまり、裁判所や公的機関以外の民間団体が設置している紛争解決手続きであっても「法律上の根拠が全くないわけではない」ということです。現在、法務省において、同法の利用を推進する動きがあり「かいけつサポート」の啓発ホームページを開設しています。以下に、取り扱う紛争の範囲を見ていただきましょう。

取り扱う紛争の範囲(かいけつサポート 法務省HPより)

では次に、今回の改正案について見ていきます。なぜ、改正されることになったのか。それは主に「民事執行の実施」に関する部分となっています。

改正案の「新旧対照条文」を見ていきましょう。

第二条(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 民間紛争解決手続 民間事業者が、紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について、紛争の当事者双方からの依頼を受け、当該紛争の当事者との間の契約に基づき、和解の仲介を行う裁判外紛争解決手続をいう。ただし、法律の規定により指定を受けた者が当該法律の規定による紛争の解決の業務として行う裁判外紛争解決手続で政令で定めるものを除く。
二 手続実施者 民間紛争解決手続において和解の仲介を実施する者をいう。
三 認証紛争解決手続 第五条の認証を受けた業務として行う民間紛争解決手続をいう。
四 認証紛争解決事業者 第五条の認証を受け、認証紛争解決手続の業務を行う者をいう。
(五を追加)
五 特定和解
認証紛争解決手続において紛争の当事者間に成立した和解であって、当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたものをいう

裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案新旧対照条文 法務省HP

第二条(定義)に五の「特定和解」を追加したということです。それで、特定和解とは何かというと「和解に基づいて民事執行をすることができる」と双方が合意している和解、ということになります。

この民事執行とは強制力があるものです。和解とはお互いの話し合いで取り交わされた了解事項ということです。それに対しての強制力とはどういうことでしょうか?簡単に言えば離婚調停で養育費を払うことを決めたのに、結局払ってくれない、ということに対して、強制的に支払わせることができる、ということを民事執行というのだそうです。

ちょうどいいわかりやすい例として次の報道がありましたのでご紹介します。

法制審議会(法相の諮問機関)の部会は4日、離婚後の子供の養育費支払いに関し、民間団体などが仲介する裁判外紛争解決手続き(ADR)の和解合意のうち一部のケースで、財産の差し押さえといった強制執行が可能となるADR法改正要綱案をまとめた。この執行力の付与には法相の認証を受けた団体が仲介するなど一定の条件が付くが、不払い対策につながる。14日の答申後、政府は秋の臨時国会以降の法案提出を目指す。

この民事執行力については2004年の本法制定の際に問題になっていた部分で、当初から見送りとなっていた件でした。これを今回の改正に盛り込んだということです。これは本ADR法制定後に始められた「 ODR推進検討会」の中間での発表された取りまとめ(令和3年3月)を参考に確認して見ましょう。まず「とりまとめ」によると次のように書かれています。

法務省に「ADR法に関する検討会」が設置され、平成25年2月以降,認証ADRによる和解の実効性を確保するための方策として、認証ADRにより成立した和解合意に執行力を付与することの是非についても検討が加えられたが,最終的には、「ADRによる和解への執行力の付与は、現時点では克服すべき課題が多いものといわざるを得ないが、他方で,事業者の選択及びこれに対する適切な規制による一部のADRのみに対する執行力の付与や裁判所の関与による和解の適切性の確認等により合理的な制度設計が可能ではないかとの見解もあることから、このような見解にも留意しつつ、今後も検討を続けるべき将来の課題とする。」との取りまとめがされた

ADRにおいて成立した和解合意に執行力を付与することの是非についての取りまとめ
 p1

その後、国際的にもADRに民事執行の付与をする機運が高まっているとのことで、いよいよ民事執行が現実のものとなってきたようです。

平成30年12月20日、国際連合総会において、国際商事調停により成立した和解合意に執行力を付与するなどの共通の枠組みを定める「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約(仮訳)」(以下「シンガポール条約」という。)が採択されるなど、調停により成立した和解合意に執行力を付与することへの機運が高まっている状況

ADRにおいて成立した和解合意に執行力を付与することの是非についての取りまとめ p2

第2  ADR法の改正による整備
1. 定義
ADR法第2条に,次のような規律を設けるものとする。特定和解(仮称) 認証紛争解決手続において紛争の当事者間に成立した和解であって,当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたものをいうものとする。
(説明)本文1の規律によれば,認証紛争解決手続において成立した和解であって,当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたものが「特定和解」と定義される

令和4年1月28日 第17回ODR推進検討会に提出された「仲裁法制部会資料」より

まとめ

では、現在わが国のADR法はどのような状況になっているのか確認して見ましょう。これも上記「とりまとめ」の記載から確認できます。

1 我が国におけるADRの実情
⑴ 認証ADRについて
令和3年3月1日現在で159の事業者が認証を取得している。平成31年度(令和元年度)の実績をみると、受理件数は1,485件で、既済件数は1,582件であった。既済件数のうち、和解成立により終局したものは945件であり,和解成立率は59.7%となっている。
なお,民間ADRの認証制度が開始された平成19年4月から令和2年3月末までの累計でみると、受理件数は13,847件で,既済件数は13,358件であった。既済件数のうち、和解成立により終局したものは5,776件であり、和解成立率は43.2%となっている。
平成31年度(令和元年度)の実績をみると、紛争額が140万円以下の少額紛争が27.6%を占めるほか,当事者の双方に代理人が選任されていない事案が約7割と割合が高いことが挙げられる。また,平成19年4月から令和2年3月末までの実績をみると、紛争解決に至る期間としては,約半数の事案が3か月未満で解決にまで至っている。以上のように,認証ADRは、総じて解決に多くのコストをかけられない紛争を簡易・迅速に解決するための司法インフラとして機能しているものと評価できる

ADRにおいて成立した和解合意に執行力を付与することの是非についての取りまとめ

さて、今国会に提出されたADR法についてですが、民事執行の付与に関する改正に関して見てきました。最終的に私が考えたのは、次のようなことです。

特定和解というものは、あらかじめ民事執行される旨の同意があって紛争処理がなされるということです。であれば、紛争処理のスタート時点から民事裁判によるべきではないのでしょうか? 裁判所からしても、ADRで不成立となって結局ADRから裁判(地方裁判所において)が開始され、判決がでた結果民事執行が行われるのであれば、ADRの意義がないように感じます。

ADRは簡易に紛争解決が図れるための制度ですから、よりシンプルに問題解決がされる制度として運用していくべきであると思う。よってADR法の改正には反対です。上記、ADRの実態を見ても不成立の割合が結構多いです。これは、言いがかり的な紛争提起も考えられますが、やはり最初から裁判としてスタートした方が効果的な事案が含まれていたからではないでしょうか?

民間事業者の参入を促す制度として法律を作った割には、結果として天下り先が増えただけのような制度になっているようにも思えます。より簡便なシステムにしてもっと民間参入がしやすいサービスとして活用できるような制度が求められているように思います。

最後におまけとして、今後ADRはどのように発展していくのでしょうか?
私の考えを述べておきます。

司法の領域は難しいようでいて、パターン化がしやすい分野なのではないでしょうか? 紛争の解決のような問題については理論的な判断の積み重ねで進められるのではないかと思います。ですので「ある条件とある条件が重なるとこのようになる」「このような推論が可能である」など。

このような論理的な事柄の判断は AI化が利用可能なのではないかと考えます。ですので、裁判はかなりAIに任せられるのでは?と思っていたのです。ましてや、ADRのような簡易な判断システムならばわざわざ人を使わなくても、今後はAIに任せられる分野ではないかということです。と思っていたところに「ODR推進検討会」という法務省の部会が目に入ってきました。この議事録を見ていたところ、やっぱりありました。ADRにコンピュータを利用するということが「ODR」だそうです。ODR推進検討会(令和4年2月28日)第18回議事録に次のようなことが書かれていましたのでご紹介します。

●上田委員 上田でございます。御紹介頂きました新たな制度の導入、執行力付与につきまして、1点ちょっと確認というか、教えていただきたいことがあります。
ADR法というよりは、もしかしたら国際商事調停の方の新法の問題なのかもしれませんけれども、ODRとの関係で、今後和解合意に執行決定を経て執行力を付与するとの制度が創設された場合、AI等を用いて調停人がいない状態で和解合意が成立した場合も、これは、新法の対象に含まれるのかということ、ちょっと私の理解不足かもしれませんけれども、文言から問題になるようにも感じました。ADR法のAI対応については、アクションプランにもあるとおり、今後の課題と理解しておりますけれども、例えば、ODR機関は存在するものの、特定の人間としての調停人が存在しないという場合に、そのようなODRというのは、新法の定義規定にいう調停の定義に含まれるのかという問題があるように思いました。これは今後の検討課題という理解でよいのか、御教示を頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

●垣内座長 ありがとうございます。なかなか難しい問題ですけれども、質問ということで、事務局から何か御説明いただける点はありますでしょうか。
●大久保部付 事務局の大久保から御説明をいたします。
上田委員御指摘のとおり、完全にAIが判断を示して、それにのっとって和解をするということになり、人が関与しない形で和解をするということになりますと、これまでの検討の中では、そこまでの議論は出ていなかったところかと思いますので、今後の検討課題ということになろうかと思います。もちろん、ADR法との関係でも、その点は検討の必要があるところでございまして、人が関与しない形で和解をさせる、そういった形でのODRを認証することになるのかどうか、あるいは、その場合の弁護士助言措置をどのように行うのかといったところについて検討の必要があろうかと思いますので、いずれの観点からも、今後の検討課題となろうかと思います。

いかがでしょうか? ADRがオンラインで利用できるようになり、さらにそこにAI技術が組み込まれるというODR。これこそ、簡易的に紛争が解決できる手段ではないでしょうか? 何なら、即座に結果が出てしまいます。こういう「かいけつサポート」なら民間参入がもっと容易になる気がします。

最後に、オンラインADRに取り組んでいるスタートアップ企業を紹介します。こちらも広義ではODRと言えますが、当然AIは未導入ですから、今後のイノベーションと法改正、規制緩和の行方を見守りたいところです。私たちは全ての増税と規制強化に反対しますし、全ての減税と規制廃止が経済成長の源であると信じていますので。


番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)

【質問1】
ADRによる受付件数が増えているようではあるが、成立の割合が思ったほど少ないと感じる。これは本来裁判による解決が必要であった案件ではなかったのか。不成立になった案件に関する分析はどのように行なっているか。
【質問2】
特定和解に関して、あらかじめ民事執行がされる旨の同意がなされて紛争処理がなされるのであれば、当初から民事裁判によるべきであると考える。ADRの結果不成立になり裁判(地方裁判所において)が開始され、判決のうえ民事執行が行われるのであれば、ADRの意義がない。最初から裁判に訴えるべき事柄ではなかったのか。
【質問3】
ADRは簡易に紛争解決が図れるための制度であるから、よりシンプルに紛争処理がなされる制度としていくべきであると思う。現在各種団体がADR事業に参入しているようだが、多くの人手を割いて解決するのであれば、裁判所だけで処理できなかった処理を分散して人海戦術で賄うことになり、社会全体でのコストが増大するだけだと思われる。社会的にもよりコストが低減されるようなシステムを目指さないとADR自体の存続も危うくなると考える。AIを利用したシステム運用が進めばADR全体としての社会コストが減少可能であると考えるが、お考えをお聞きしたい。

最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。 頂いたサポートは地方自立ラボの活動費としてありがたく使わせていただきます。