定例会見で「桜を見る会」問題に触れた山口県下関市長の前田さんみたいな方々をよく存じております

 「桜を見る会」問題を巡る安倍首相サイドの対応、さらに混迷を深めていますね。
 昔の自民党であれば、時の総理・総裁の決定的な不祥事が明るみに出れば、次の最高権力の座を狙う有力代議士がうごめき出してトップを牽制し、名乗りを上げ、総裁選という名の注目度抜群の「組織内プロレス」で勝利した新リーダーが「刷新」「立て直し」などと唱え、政党支持率が持ち直すーという新陳代謝(疑似政権交代)が行われたわけですが、そんな野心と気概のある政治家が今は自民党内にいないのでしょうか。なんとつまらん腰抜け政党になったか!

 …そんな昭和ノスタルジーなオッサンたちをうならせる「逸材」を、「桜を見る会」問題のおかげで発見することができました。安倍首相の地元・山口県下関市の前田晋太郎市長です。

 前田市長が一気に「時の人」となったきっかけは、11月18日に行なった定例記者会見です。マスコミ各社が報じていますが、ここは一問一答を作ってくれた毎日新聞のリンクを貼ります。

 途中から有料記事になりますが、無料の部分だけでも十分に雰囲気は分かります。こんな丁寧な報道をしてくれる毎日新聞さんを応援しようという方はぜひ、ご登録を。新聞社はどこも経営が苦しいんです。助けてあげていただければ幸いです。
 と、リンク先に一通りのゴマをすったところで、以下に記事の一部を抜粋します。

私が行ってみて思うことは、やっぱり70、80歳のおじいちゃん・おばあちゃんたちがネクタイぴしっとしめて、着物着て、人生一番の大勝負で新宿御苑に向かうんですよ。あの時、あの喜んで行っている姿を見ると地方を元気にしてくれている会だなと思っていました。

 Twitter上に「#下関市長」というハッシュタグもでき、集中砲火を浴びています。そりゃそうでしょう。
 市のトップという立場にありながら、公金を扱うということへの意識が信じられないほど低い上に、安倍首相の元秘書でありながら、間違いなく元親分の足を引っ張っているのですから。

 まあそうなのですが、記事を読んでぼくの脳裏に最初に浮かんだのは、「懐かしいなぁ」という感覚でした。
 山口県で取材をした経験はありませんし、前田市長と面識もありませんが、「根は『いい人』に違いない」と確信しています。これまでの取材で、こういうタイプの方々とは親しくお付き合いをさせていただいておりましたので、勘で分かります。

 会見については、19日午前のTBSラジオ「伊集院光とラジオと」のニュース解説コーナーで取り上げられた際、伊集院さんが前田市長のことを「正直な人」と評しておりました。

 このラジオ番組を聴いて、なぜぼくが前田市長の記事を読んで「懐かしい」と感じたのか分かりました。会見で語られた内容がまるで、国会議員の地元事務所で旧知のベテラン秘書と「ぶっちゃけ話」をしている感じーだからなんです。

 これまでの記者人生はほとんどが「地方回り」でしたので、中央政界や自民党本部内の権力闘争を取材した経験はほとんどありませんが、自民党の地方議員の皆さんとは各地で深く濃いお付き合いをさせていただきました。

 いざ衆院解散となれば地元秘書を中心に党所属の県議や市町村議、建設業者の幹部たちが手分けして選挙区内を駆け回り、アドレナリンをダラダラ流しまくりながら「オラがセンセイ」の生死を賭けたお祭り騒ぎを繰り広げるー。そんな姿をたくさん見てきました。
 そして、そういう「お祭り騒ぎ」の輪の中心に、前田市長みたいな物言いをする名物男が必ずいたものです。

 こういうタイプの人ってだいたい、感情的になって暴言を吐いたりして敵を作ることもあるけれど、基本的には率直で人情味があって話が面白くて、熱烈なファンが付いてたりするもんです。

 そして、こういう方とコミュニケーションの取る際にはコツが必要なんです。頭から理詰めで持論をまくし立てるのは逆効果で、決して本人の心に言葉が届きません。こんな感じに丁寧な前置きをしなきゃいけません。

 「オッサンさぁ、オッサンはこれまですごく頑張ってきたし、オレはそれをよく分かってるんだよ。オッサンのおかげでいろんな人が助けられたし、みんな感謝してる。みんなオッサンのことが好きなんだわ。だから、今からオレが言うことは、オッサンのこれまでの人生を否定するようなことでは決してないからね、そこは誤解しないで聞いてほしいんだけどさぁ、さっきオッサンの言ったこと、残念ながら今の世間じゃもう通用しないんだわ。なんでかというとね…」

 年長者に「セクハラ&パワハラって今は『悪いこと』なんですよ」と諭す若輩者、みたいなトーンではありますが、要は「罪を憎んで人を憎まず」ってことです。

 ぼくの中で、自民党のイメージってずっと、「自分勝手で世の中の流れには疎いけど人情味があってオモロい昭和のオッサン」だったんです。政策を抜きに、自民党を構成する人たちには一定程度の好感を持っておりました。

 でも、「安倍一強」時代が長く続く中で自民党が、野党(と野党を支持する国民)を軽視し、隣国を攻撃し、楯突く人が出てくれば御用マスコミやお抱えの学者、タレント文化人をけしかけて威嚇するーみたいな暗く陰惨な感じに変わってきているように見え、「随分と狭量な組織になったもんだ」とガッカリしていました。
 そんな中でしたので、下関市の前田市長みたいな方が自民党界隈に浮上してきたことに、「ホッと」したんです。

 野党と野党支持勢力は、前田市長のこの発言もテコに安倍首相への追及を強めていくはずです。まあ、野党とか与党とかそういうのに関係なく、最高権力者に公選法違反があったかどうかってのは、はっきりさせなきゃいけません。

 そこは重々承知の上で、野党と野党支持勢力の方々に申し上げたいのは、前田市長の発言内容そのものを批判するのはともかく、勢い余って前田市長ないし前田市長の支持者を個人攻撃的に「低く見て馬鹿にする」のは決して得策ではない、ということです。

 ただ安倍政権を倒したいだけであれば、手段や手法を選ばず攻撃を繰り返せばいいのでしょうけど、その先に政権交代を見据えているのであれば、前田市長や前田市長の支持者のような「素朴で正直な保守勢力」を味方につけなければ、成功しないと思います。
 「都会の高学歴なインテリたちから寄ってたかってバカにされた」という屈辱の記憶は、地方の人間のナイーブな心にずっと残り続けるものなんです。

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