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渡る世間は「ハラ」ばかり

 気づいてみたらいつの間にか「〜ハラ」という言葉がすごく増えてますよね。新種の「〜ハラ」をマスコミで知り、「それは無理があるから流行らないだろうね、その言葉を流行らせて一儲けしようと考えている勢力はいるだろうけど」と思ったことがある方は少なくないでしょう。

 その「ハラ」界の元祖であり本家がたぶん、「セクハラ」と「パワハラ」なのでしょう。偉大な言葉たちです。この二つの言葉が普及してくれたおかげで、そうした行為が社会的に認められないという認識が広がって、対策が講じられるようになったわけです。素晴らしいことです。

 そうした言葉が誕生する前から、他者の言動や行為、価値観の強要、同調圧力などにより「生きづらい社会だなぁ」「イヤな感じだなぁ」と感じていた人がたくさんいたわけですが、その「生きづらさ」「イヤな感じ」を与えている行為や状態を命名したからこそ、はっきりと可視化できたといえるでしょう。
 ハラスメントという英語を「ハラ」と略そうと考えた先人の功績は極めて大きいと思います。

 しかし、多用されすぎだと思うんですよ、「〜ハラ」。初出のインパクトが強くて社会に定着したからといって、安直かつ中身が薄い「ジェネリック新語」がぞろぞろ出てくるのはいかがなものかと。ネットでこんな記事を見つけました。

 35種類! まとめてくださったサイト「社会人の教科書」さんに感謝です。以下に、こちらのサイトに掲載されている35種類の略称を引用します。

セクハラ、セカハラ、パワハラ、モラハラ、アルハラ、ジェンハラ、アカハラ、リスハラ、テクハラ、キャンハラ、スクハラ、ドクハラ、カラハラ、スモハラ、ブラハラ、テクハラ、エレハラ、エイハラ、シルハラ、マリハラ、ペットハラスメント、スメハラ、エアハラ、ソーハラ、オワハラ、カジハラ、ゼクハラ、パーハラ、マタハラ、ラブハラ、レイハラ、レリジャスハラスメント、ヌーハラ、フォトハラ、カスハラ

 メジャーなのもあれば、なんだこりゃ?というのもありますね。広告代理店で「明日の会議までに新しい『〜ハラ』を100個考えてきなさい」という宿題が新入社員に与えられ、そこで出てきたものをただ並べただけ的な雰囲気があります。
 何年か前、「ことしの新語・流行語大賞は『トリプルスリー』」と聞いた時と同じようなモヤモヤ感があります。

 ちなみに、ことしの流行語大賞「ワンチーム」も致命的にずれています。ラグビー日本代表の快進撃そのものが注目されたわけで、「ワンチーム」という言葉が流行したわけではないはずです。

 新語・流行語大賞の世間とのズレっぷりについては、能町みね子さんがエッセイ「言葉尻とらえ隊」(文春文庫)の中で指摘しておりましたが、本当にその通りだと思います。「年末の風物詩」ってことで各マスコミが惰性で取り上げておりますが、こんな状態が続くようであれば、将来は報道されなくなると思います。

 「〜ハラ」に話を戻します。新入りの「〜ハラ」から感じる違和感の要因は、「英語の発音を日本語カタカナ2字に収めるルール」にもあるとも思われます。

 こうやって35種類を眺めてみると、2文字にはしたけど音の響きや語呂が悪いのもありますし、こうして比べてみると、やはり元祖・本家である「セクハラ」「パワハラ」の出来の良さが際立ちます。
 「ー」(音引き)は1文字としてカウントし、(例:ソーハラ、パーハラなど)し、促音・拗音(小さく表記する文字)はカウントしない(例:ジェンハラ、キャンハラなど)、といった緩い法則性もみられます。細かくみていくとツッコミどころだらけで「ネタの宝庫」ですね、これ。

 そして、これだけ出来の悪いのが粗製濫造されているのだから、「自分だけのオリジナルを一つぐらい作ってもいいんじゃね?」と考えるのが人の情なのかもしれません。ぼくの周囲でこんな例がありました。

 「宮原さん」(仮名です)という名字のセクハラ・パワハラ中間管理職と同じ職場に自分を異動させようとする人事担当者の振る舞いを「ミヤハラ」、その上司が「原田さん」(もちろんこれも仮名)だった場合は「ハラハラ」ーと呼んでいるのを聞いたことがあります。
 まあこれは、たまたま「ハラ」が名字に付く人が身近にいたから「ただ言いたかっただけ」というノリ先行な部分もありますが。

 あと、これは身近にあった被害事例をいくつか比較・検討した上での分析ですが、組織内の上下関係を悪用したセクハラ・パワハラって「年上男が加害者」で「年下女性が被害者」というケースがほとんどだと思われますが、どっちか片方だけというパターンは見たことがありません。

 「この前のケースは『セク90%、パワ10%』、今回のは『セク40%、パワ60%』」みたいな感じで。「セク&パワ混合比率」という概念を新たに設ける必要があるかもしれません。
 「セク100%、パワ0%」ってのはあっても、「パワ100%、セク0%」はないです、ぼくの知る限りでは。

 年上男が年下女性に「ハラ」する場合は間違いなく「セク」が含まれているものなんです。この文章を書いている「意識低い系新聞記者」は中年のオッサンですが、同性としてホントに情けないです。

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