ぼんやりとした視界の中で
少女の視界はいつもぼんやりとしていた。
自分の顔さえもはっきりとは見えなかった。
視線の先に何があるのかを知るためには、目を細めなくてはいけなかった。他人から見れば、何かを睨みつけているように見えたのかもしれない。
「お宅の子、ずいぶん目つきが悪いわね」
「そうなのよ。可愛げのない子でしょ」
そんな会話を何度も聞いたことがあった。
「私はかわいくない……」
※※※
小学校では視力検査というものがある。
初めての検査。
少女の視力は両目とも0.3だった。
眼鏡をかけている子どもは少なかった。いや、少女の同級生にはいなかった。「こんな小さい子にメガネをかけさせるのは可哀そう」と少し様子をみることになった。
少女は見るために睨み続けた。そうするしかなかったからだ。けれども、見ようとすればするほど「おまえはかわいくない」という言葉が脳に刷り込まれていく。本当はキラキラしていたはずの瞳からは、すっかり光は失われていた。少女から笑顔は消え、本当に可愛げのない子になってしまった。
目は心の鏡
眼の機能には個人差がある。
けれども、生まれたときは、全ての鏡に一点の曇りもなかったはずだ。
鏡は自分の力では曇らない。
大人たちは少女の目線で考えなかった。少女の視線の先がどうなっているのかは想像もしなかったのだろう。
どうして誰一人として、少女に優しい言葉をかけてあげられなかったのだろうか?たった一言だけでよかったはずだ。
「見えにくいだけだよね」と。
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