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「強情なシェフ」【ショートショート/140字小説のリライト】
おとなしく料理を食べていたはずの客が豹変した。近くの客席にいた女性を人質にとり、銃をつきつけたのだ。
店内はパニック。すぐに警察がやってくる事態となった。
「俺の要求に応じなければ人質の命はない!」
交渉役となった警察官が冷静に応対する。
「わかった。まずは落ち着こう。できる限り君の要求に応えたいと思う。いったい何が望みなんだ?」
犯人の男の目が血走る。唾を飛ばして叫んだ。
「今すぐ、この料理から人参を抜け!」
誰もが目を丸くした。
警察官が店内スタッフとアイコンタクトをとる。
「……よし、わかった。そのくらいの要求なら……」と警察官が安堵の声を発したところへ、シェフがやってきた。
「それはできません」
「え……! いやいや……。簡単な要求ですよ。なぜ……?」
「お客様の健康のためです」
犯人の顔がひきつる。
「この人質がどうなってもいいのか!」
シェフは伏し目がちに首を振る。「……やむをえないかと」
こじれてきた。
※かつてのTwitterで投稿していた140字小説。140字以内はけっこう難しく、なくなくカットした箇所もかなり……。字数を気にせずにリライトした過去作をnoteにあげていってます。