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新年早々、大変お世話になった話

 今年の年末年始はなかなかハードモードだった。
 ことの始まりは、まだ2025年がストレッチをしながら出番を待っている大晦日の昼頃だった。
「なんか具合悪い」
 娘が突然言い出した。
「おいおい、冗談はよしこちゃん。この年の瀬によしこちゃん? いったい私は何を言っているのだ……?」
 熱をはかってみて驚く。
「さ、さんじゅうはちどはちぃ……!?」と私は叫び、ひらがなで数字を書くとなんと読みにくいことかと思った。
 この日は大晦日。2024年の最後の時を家族みんなでふんどしを締め、ぶつかり稽古を繰り返し、互いの成長をたたえるという古来より伝わりし伝統儀式に精を出すはずだったというのに。
 娘が熱を出したとあっては、カウントダウンからの大爆破や鼻から年越しそばも中止せざるをえない。
 もともと2024年は大晦日まで仕事の予定があり、例年よりタイトなスケジュールとなっていたのだが、ここに娘へのねんねんころりよおころりよが加わった。
 結局、我々元気な民は鼻からそばをすすることを諦めて口から食べ、娘には急遽コンビニで買ってきたゼリー飲料を鼻から飲ませるという事態になってしまった。

 年越しの瞬間も娘の熱はどんどん上がっていく。おでこに触れる。じゅー。あっち! これの繰り返しだ。体温が39.3度まで上がった段階で「ははーん。さてはこれ……なにかだな」と思った。なにかはまだわからないから、なにかなのだ。

 しかし、まいった。世の中は年末年始休暇に突入しており、かかりつけ医だってここから数日間は寝正月を過ごすに決まっている。だってホームページを確認したら年末年始の診療は寝正月のためお休みしますって書いてあるような気がしてならないもの。

 その間にも娘はどんどんぐったりとしていき、なにかにその体を蝕まれていっている。
 私は、当番病院へ行き、元日の大半をそこで過ごすことを覚悟した。
 というのも、以前にも子供が幼き頃、深夜の救急病院や日曜・祝日の当番医院なんかに連れていったことがある。あと、遊園地や水族館にも連れていったことがある。
 救急病院や当番医院というのは、他の病院がやっていないときに処置をしてくださるわけで、市に暮らす人々の中で調子が悪くなってしまった人を一手に引き受けるという凄まじく懐の深い大変な職務をになってくださっている。当然、順番待ちもかなりのもので、そんじょそこらのラーメン屋なんか足元にも及ばないのである。

 このとき、私は娘の体内に潜むなにかがインフルエンザではないかと当たりをつけていた。私には医師免許もなければ、お医者さんカバンがあるわけでもない。それでもそのくらいはわかる。だって流行っているから。
 本当にインフルエンザだった場合、まだしばらくは高熱が続くだろうし、つらい思いをさせることになる。
 当番医院の受付は何時からか調べようと、私は究極の神器・インターネットを利用した。すると神器はとてつもない有益な情報を私にもたらした。

インターネット「ドライブスルー発熱外来っていうのがあるけど知ってる?」

私「ド、ド、ド、ドラ、ドラ……ドラえもんのお医者さんカバン……!?」

インターネット「違う。ドライブスルー発熱外来」

 ドライブスルー発熱外来は、かつてコロナが猛威をふるったときに一度お世話になった経験がある。あれ、めっちゃ便利。車から一歩も出ることなく検査が終わるのだ。
 そのドライブスルー発熱外来を市様がやってくださっていらっしゃってそうろう。なんとインフルエンザとコロナのどちらも検査が可能で、検査結果に応じたお薬まで処方してくださっていらっしゃってそうろうだそうだ。
 コロナ禍において大活躍していたことは知っていたが、まさか今現在もさらにその機能を拡充させ展開しているとは……!

 元日の早朝から早速、予約だ。トリバゴならよその予約サイトより……いや、ダメだ。市のサイトからしか予約はできない。当たり前だ。

 1月1日の予約はすでにいっぱい。しかし、午後の部の【キャンセル待ち】の枠がまだ受け付け中だった。そこに滑りこみで予約を入れた。これが本当に文字通り滑りこみで、私が予約を入れた瞬間に受け付け終了となったし、床でヘッドスライディングしながら予約をした。

 そして、キャンセルが出なかったときのために明日の予約も入れておく。予約の受付は前日午前九時からおこなっていた。つまり、娘が発熱した大晦日時点では、きっともうすでに元日の予約は埋まっていたのだ。
 1月2日の予約がとれたところで一安心。あと一日、娘には頑張ってもらうこととなるので、私はチアリーダーの衣装に着替え、ポンポンを振り回しながら娘に声援を送ろうと思った矢先のことだった。なんと、キャンセル待ちの順番がまわってきた。

 どうせ今日は呼ばれないからチアリーダーになったというのに、すぐにもう一度着替え直しだ。慌てたせいか、昨日のふんどしを締めたりなんかしちゃったりしなかったり。

 そうして家を出発してものの30分。あっという間に全部終わった。

 まず、ドライブスルーの入り口がすぐに見つかるか心配だったのだが、この寒い中、ちゃんと案内の人がいて車を誘導してくれる。次の曲がり角でまた誘導の方。あちらへこちらへ誘導された通りに進んで行くと、プレハブ小屋の横に車をつける形となり、そこで看護師の方のご降臨。さっさっさ、とすぐに検査をしてくれた。そして検査結果を待ちながら次は医師のいるブースへ。診断結果はやはりインフルエンザ。そうとわかればこっちのもん、と言わんばかりにインフルエンザ専用のお薬を処方してくれる。

 なんというか、マジで全部がドライブスルーなわけ。私はただ言われた通りに車を動かし、娘にいたっては助手席に座っているのみ。本来であればやらなければいけなかった「病院に行き、順番を待ち、診断を受け、お会計を済まして処方箋をもらい、薬局へ行き、順番を待ち、お薬をもらう」という一連の流れを座っているだけですべてコンプリートしてしまうのだ。

 控えめに言って、私は超絶猛烈怒涛の如く感動した。

 長時間の待ち時間や、診察室前のベンチで娘ぐったり状態まで覚悟していたというのに、いっさいのストレスや心労もなく、検査から診察、処方までがすべて終わる。これが感動でなくてなんだというのか。

 一方で、患者さんたちにとっての快適を実現するために、このドライブスルー発熱外来に携わってくださっている方々の苦労たるや、頭が下がりすぎて髪の毛で掃き掃除できるほどにございまする。
 ドライブスルーがスムーズに進むよう、たくさんの方々がきめ細かな道案内をしてくださり、元日にもかかわらず、さらには外なので寒さもあるというのに、発熱で苦しむ患者さんたちのためにてきぱきとお仕事をしてくださる医療従事者の方々には本当に感謝でいっぱいです。
 素晴らしいお仕事だなと心から感動いたしました。手放しで賞賛の拍手を送りたいです。送ります。ちゃんと元払いで。

 素早いご対応のおかげで、娘が高熱に苦しんだのはわずか一日のみとなりました。重ね重ね、御礼申し上げたく存じます。
 
 残りの隔離期間、私がチアリーディングで娘を元気づけたことが功を奏したかどうかはともかく、おかげさまで娘は無事に回復しました。ありがとうございました。

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