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速達配達人 ポストアタッカー  15、ダンクは口が悪すぎる

エクスプレスの一角は、パーテーションで分けた部屋になっている。
中はくたびれたソファーにテーブルと、家具はボロだが休憩の為らしい。
初日なので息抜きに早めに外へ昼食べに出る。
この辺、あまり来ないから良くわかんない。
つか、俺は知らない物とか食いたくない。
町まで戻った方が早いので、シロイのおっちゃんと婆ちゃんに報告がてらランチ食べに行った。

戻ってゲートをくぐり、広い馬繋場のエクスプレス枠にベンを繋いでいると、なんだかやけに体格と毛艶のいい牝馬が入っていた。
鞍には電撃の入った郵便マークのエクスプレスのプレートを下げて、ベンより一回り大きい。

「でかいなー、ベンが小さく見える。まあ小せえけど。」

おやつにニンジンやりながら眺めてると、いきなり後ろから暴言が飛んできた。

「小せえ!なんだその馬、ロバ?そうか、ロバかよ。
まさか、それがお前の馬?いや、ロバ?追いつかれてすぐ死ぬんじゃねえの?」

ブ、フーッと目の据わったベンが鼻息を出す。
サトミがクルリと振り向いた。

「はあ??あんたアタッカー?お子様かよ、はじめましての挨拶も知らねえの?」

「知らねえなあ〜、教えてくれよチビ」

ニイッと男が水汲んだバケツ手に、イヤーな笑いで見てる。

「てめえ、この世とおさらばしてえみたいだな。え?」

「キヒヒヒ、何だよキャミー、ずいぶん血の気の多い奴スカウトしたなー」

笑ってるそいつは両腰に銃をぶら下げたカウボーイスタイルで、黒髪に瞳と同じ派手なブルーのスカーフがやたら目立っている。
大きなカバンをたすきにかけて背中に回し、腕には郵便マークに稲妻のポストアタッカーの腕章。
でっかい牝馬に餌と水をやって、自慢げにその馬を親指で指した。

「お前、新しく来た奴だろ?ちっこいから、すぐわかった。
このビューティフルな馬はエリザベス。俺はダンク、ダンク・アンダーソン、18さーい!
お前15だって? 俺、3つ上だ、お兄ちゃんでもいいぞう!よろしくな!」

手を出されて、握手するか考える。
すげえ俺は逆なでされて、背中の毛がビンビンに逆立ってる。
世の中こんな奴らばかりなのか、俺は1人も殺さず世間を渡っていけるのか0.1インチ(2.54 mm)も自信がねえ。

「へえ、なんだよお前、チャイニーズ?あれ?銃持ってないな、カンフーで強盗と戦うの?
強盗ってみんな銃だぜ?お構いなしにバンバン撃ってきやがる。
お前死ぬのに3秒じゃん、銃買う金ないなら貸してやんよ。」

大きくため息付いて、相手にするのも面倒くさくて事務所に向かう。
ドアの掌紋認証に手をかざし、ドアを開けるとダンクって奴も続こうとした。
サッと入り、奴の鼻先でバタンと閉める。ドアは自動で鍵がかかった。

「ええええええええ!!なんでえええええ」

外から大声で叫びが聞こえる。へっ、ざまあ

「あら、おかえり〜、どしたの?」

「あいつ、うるせえ〜身長のことばっか言いやがって、メチャクソ腹立つ〜
パソハラ( パーソナルハラスメント)の概念がねえのか?一般はよ!」

バターーンッ!

「てめえ!それが疲れて帰ってきた先輩への仕打ちかよ!ひっでえ!このチビ助!」

「うるさいよダンク。ほら挨拶したの?こちら今日からのサトミ君。
伝票とお金、計算するから頂戴。チップ有り?あと、人を侮辱する言葉はやめてよね」

「うん。チップあり、茶でも飲めって3ドルもらった〜。プリペイドでもらったから3ドル頂戴。
チェックはしてる。あと、不在が2件。
あー、サトミ君!チビ言ってすいませんでした!チビってもう言いません!
チビって言ったのほんとにごめんなさい!」

サトミに頭下げて、ニヤッと笑う。
こいつ、マジウルトラ超腹立つ!!

「てめえ、今度言ったら首落とす!」

「首??!!なんで??!!」

驚くダンクの前で、サトミの手が背中の剣に向く。キャミーが慌てて声を上げた。

「サトミ!今度抜いたら!」

「じゃあ!こいつの口、縫い付けろ!」

「何か怖えガキ」

腹立たしそうにボスッと座るサトミを横目に、キャミーがダンクのケツをドカッと蹴った。

「いってえっ!何すんの?キャミー」

「これでチャラ!じゃあ仕事の話よ!
サトミ君、チップは貰ってもいいけど、金額と誰からかは記録残してね。
以前チップでトラブルあったの。
不在は持ち帰り、翌日再配達でいなかったら郵便局保管。一週間後戻しだから。」

「了解。と、君はいらねえ、サトミでよろしく!」

「わかった。ダンク!明日、デリーの当番ダンクでしょ?サトミとエジソン一日よろしく。」

「えええええ〜俺がガキんちょの面倒見るのかよ。めんどくせえ〜」

ぼやきつつ、ダンクがごそごそ昼飯のバーガー出して食べ始めた。

「まあ、ダンクだって3つしか違わないじゃん。
えーっとサトミ、当部署は正式名称ポストエクスプレス。
一般と分けて、速達及び特急郵便専門。宛先は近隣市町村当てがほとんどよ。
この地区の基幹郵便局であるデリー郵便局から荷物を運んで、うちとシナリア、ベリア、ミルドの3局分を仕分けるの。もちろん行くときは逆ね。常に荷物は運んでる状態。
それが一日2便、午前はうちが往復、午後はデリーから来るわ。
あと、東のメサイアは3町分受け持ってるけど、人口少なくて滅多に無いの。
簡易郵便局を個人でやっててアタッカーがいないから、こちらからメサイアの郵便局まで出るの。向こうでこちら向けの急ぎの集荷あった時は電話連絡あるわ。

遠出は当番制で、午前は1人デリー、午前午後、1人がシナリア、ベリア、ミルド3局に走る。
個別配達は……サトミが加わると午前2人、午後3人になるわね。
休みは土曜午後と日曜。土曜午後は3局周りだけ当番一人が回る。個別配送は無し。

で、家々を回る個別配送、数多くて手が足りない時は一般から手伝いに来るわ。
特急便は、特指定で別料金取って、それだけ早馬出すの。
まあ、高額だから滅多に無い。
で、明日早出のデリー行きはダンクね。」

「オッケー」

「ふうん、速達ってさ、料金それほど高くないだろ?よく元取れるな。」

「郵便は準公務員よ、国の管轄なの。あれっ?言ってなかったっけ?」

「あーーーー、ヤバいじゃん」

「ごめんごめん」

なんだよ、国の管轄から外れたと思ったのに、また自分で戻っちまったじゃねえか!
マジかよ、そう言えば武器は軍からとか言ってたし、あのヤロー絶対口だしてくるじゃん!
あーーー、ため息しか出ねえ〜

「ねえ、今アタッカーって何人?」

「3人。デリーに行くのは3日に一度。サトミが来たら4日に一度になるわね。」

「マジか!ギリじゃん!」

「そうよう、サトミ来てくれて、マジ天使〜ね〜ダンク?」

「まー、使い物になればな〜、はぁ〜〜〜〜ほんとに大丈夫かなあ」

ダンクは物思いにふけりながら、コーラ飲んでゲップする。
2人死んだ穴は、気持ちの上でもなかなか塞がらないのだろう。
彼らは死んだ仲間のことを一言も言わなかった。

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