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速達配達人 ポストアタッカー  2話

2話 日本刀の少年

激しい戦闘の痕跡の残る荒野を、4頭の人を乗せた馬が疾走する。
それは良く見ると、先頭の一頭が後ろの3頭に追われているようだ。

よく見なければわからないそれは、あまりにも追われる先頭の人間が、焦っているように見えないからだろう。
後ろの人間からすると、先頭の馬に乗る人間は馬に対して小さく見える。
迷彩のジャケットにジーンズ、帽子代わりのスカーフを頭から首に巻いて、目にはゴーグルをしている。
そして何より目を引くのは、その背に身体に不釣り合いなほど長い棒を背負っている。

その小さな姿は、まだ成人前の少年のようだ。なのに、姿に反して少しも慌てていないようで奇妙だった。

やがて後ろの1人が銃を構え、数発を放つ。
しかし先頭の少年は、ひょいと頭を右に倒すだけだ。

追う男は怪訝な顔で、更に数発撃つと、少年は馬を操り左に避けた。

「なんだ?あのガキ、見もせずに弾を避けやがる!くそっ、偶然だろ!」

横を走る男に合図して、一緒にまた数発を撃った。
少年は、目にとまらぬ早さで背の棒から刀を抜き、日の光に一閃させて弾をはじきながらくるりと回して刀をもどす。
棒は、どうやら日本刀のようだ。しかし、日本刀などこの辺の人間は見たことも無いだろう。
やがて、少年は大きくため息をついた。

「くそったれ!飽きた!」

もう少し張り切ってくるかと思ったのに、単発で撃ってくるだけだ。

「ちぇっ!ちぇっ!もっとよ!バンバンバンバン撃って来やがれ!しみったれてやがる!
あー、まったくしょうがねえ。めんどくせえ!」

馬を減速し、向きを変えた。
そして一気に先頭の男に向かう。
突然自分達の方へと向かってくる少年に、面食らって銃を撃つ。
少年は器用に避けて、背の刀に手を伸ばす。
すれ違いざま、ピュンと刃がうなった。
先頭の男の馬の、手綱と頬皮を切られて男がバランスを崩す。

ヒイイィィン

「うわあああぁぁ!」

馬具を切られ、一方を強く引かれて馬が驚き、思わず立ち上がった。
男はたまらず落馬して、地面を転がり歯がみする。

「かしら!」

「く、くそっ!」

少年が刀を直して馬を停め、小さなナイフを他の3頭の馬の尻に投げた。

ヒヒーーン!

痛みに馬が驚き、3頭とも八方に駆け出す。

「うわああああ!!」

「かしらああ!」

一人残されたかしらの男は、痛みをこらえながら銃を少年に向けた。

「あー、撃たない方がいいぜ」

少年、サトミ・ブラッドリーがのんびり告げる。
男は引き金を引こうとして、愕然と銃を見た。
無い。
銃身が半分無い

「て、てめえ……一体……なにさまだあ!」

焦る男にククッと笑い、背の刀に手をやる。
しかしそこで、ハッとして手をもどした。

「そっか……もう軍辞めたんだ、とどめはいらないんだった。
命拾いしたな、また会おうぜ。」

「失せろクソ野郎!二度と通るな!」

「ハハッ!お前らもまっとうに働け!じゃあな!」

男を残し、走り去るサトミを追ってくる気配はない。
きっと気味が悪いとでも思っているのだろう。
旅に出てすでに強盗に襲われるのも3度目。
1度目はうっかり切り捨ててしまった。
2度目はまあ、やけに武器を持っていたので、仕方なくすっきり全滅。
盗賊も命を狙ってくるだけに、戦闘にはいるとつい真剣を向けてしまう。
戦後も相変わらず平和に遠く、人々は日常も戦いが生活の一部になっていた。

この国メレテ共和国は、第4次大戦後も隣国アルケーとの小競り合いが長引き、国はインフラを破壊し尽くされ国民は困窮し、一時衰退した。
戦中、時の独裁政権がどさくさに紛れて隣国アルケーを侵略し、グズグズと泥沼の戦争を続けたのが原因だ。
戦いは侵略されたアルケーが隣のテレクシーと組み、連合軍をバックに付けて元の国境まで押し戻した。メレテは敗戦の色が濃い状況で、いつ終わるかわからない戦いの中、大統領の暗殺から軍による粛清をへて、民主的な新政権樹立でようやく終わりを見た。

戦争での大量消費は、世界的な金属、希少金属の高騰、そしてガソリンの高騰を生み出し、メレテは特にインフラの破壊が深刻であった。とは言え、電気や水は小規模で各地に施設が作られ回復したものの、問題は通信施設。
電話のケーブルを引けば片っ端から盗難され、電話は軍の管理する通信料金の高い衛星通信しか使えず、事実上数日かけて郵便でやりとりする状況に後退した。
しかもガソリンの高騰は車を高級品に跳ね上げ、人々はもっぱら馬で移動している。
そんな、文明が後退したような、それでもちょっと進んでるような、微妙な世界。
サトミは少年兵ながら、そんな軍を終戦から数年後バッサリ辞めて家を目指していた。

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