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カワノナリタチ 5、ヤマミズノカミとハジマリノキミ (エ)

「どうしよう、どうしよう!」

「キミ、キミ!しっかりするんだ。」

「カミはすぐに移動しようって言ったのに!
僕が、僕が!待ってって言ったから!僕が言ったから!」

蒼白の顔で、涙をこぼして顔を覆った。
僕は彼をギュッと抱いて、このまますぐに逃げたくなる。
いや、駄目だ。僕らはカワノカミ、僕らを頼ってきた者を逃がさなければ。

「キミ、落ち着いて。大丈夫、水脈は確保している。すぐに移動しよう。
僕はヌシを身体に取り込んでくる。」

「うん、うん、わかったよ。
じゃあ、僕は生まれた子だけでも下流に逃がしてくる。」

「急ぐんだ、僕はここで待ってる。」

涙を拭いて何度もうなずき、ハジマリノキミは僕をもう一度ギュッと抱いて、そして生まれたばかりのカワズの子供たちを連れて下流へと流れていく。
僕はすぐに泉の底へ行くと、ヌシノカミを探し始めた。

「ヌシ!ヌシ!どこにいる?ハレニギノヌシノカミ!」

水草の中を探す。
人間が底を荒らしたので、ヌシのお気に入りの場所が無くなり最近寝る場所が決まっていない。

「なーんだー」

コイのヌシがのそっと後ろから出てきた。

「上がイタミビトに襲われている。
水脈に沿って急いで逃げる、早く僕に入れ。」

「イタミビトだとぉーーー!!食われるぅ!たーすーけーてくれぇ」

「早く!」

ヌシが少し小さくなって、僕の胸にヌウッと入ってくる。
ヌシは僕の中を泳ぎながら、落ち着き無く右往左往していた。

「いつ〜出られるか〜のう〜」

「すぐに場を作る努力するよ。」

「たのむぅ〜」

上へ上がるごとに、木を切る音がいくつも反響しているのがわかる。
水面からそっと見ると、イタミビトたちは泉の横に石を積み始めた。
沢山の死んだ木を並べ、以前作った水路をいじっている。
ドボンと汚い手がいくつも差し込まれ始めた。
泉のふちの浅い所に石を積み、イタミビトたちは自分たちの思うように僕の形を作り替えようとしていた。

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