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はじめまして、LLLです。(前編)

リビングラボを考えるラボはじめます。

2023年4月から、Living Lab Laboratory(通称、LLL)という、リビングラボ・共創に関する研究プロジェクトを始めました。

LLLは、その名の通り、「リビングラボ」について考える「ラボ(=研究所)」です。特に、“日本の社会文化的文脈”におけるリビングラボのあり方や方法論を構築することを目的としています。私=赤坂文弥(産総研)の他に、秋山弘子さん(東大)、安岡美佳さん(ロスキレ大)、中谷桃子さん(東工大)、南部隆一さん(ACTANT)という、リビングラボに関する(実践を含む)研究活動を先駆的に行ってきたメンバと一緒に、活動をしています。トヨタ財団という公益財団法人から研究助成金(プログラム名:先端技術と共創する新たな人間社会)をいただいています。

LLLのロゴ(Design by ACTANT)

我々はなぜ、LLLを始めたか?

この記事は、LLL として発信する一本目のnote記事なので、「なぜ、今(このタイミングで)、このプロジェクトを始めたか?」について、少し書いてみようと思います。

「リビングラボ」とは、ざっくり言えば、「これから(未来)の社会や技術を、生活者を含む多様なステークホルダと共にデザイン・実現するための仕組み(環境とプロセス)」のことです(注1)。
リビングラボは、1980年代にアメリカで生まれた概念ですが、その後、欧州(特に北欧)に渡り、様々な実践や研究が行われてきました。リビングラボの概念が、日本でも知られるようになってきたのは、2015年前後だったと思います。私がリビングラボの研究を始めたのもこの頃ですが、当時は、「リビングラボ」という言葉・概念を知っている人は、国内にはほんの一握りしかいませんでした。

それから7~8年が経ち、最近では、日本国内でもリビングラボという言葉が浸透しつつあることを強く感じます。「リビングラボとは何か?」を、ある程度知っていることを前提として、対話・議論できる機会が増えてきました。特に最近では、いくつかの民間企業や自治体から、「リビングラボをやろうとしているんだけど、悩んでいて…」という相談をいただく機会もかなり増えています。数年前に比べたら、すごい進展です。

一方で、こういったフェーズに入ったからこそ、様々な課題も露呈しています。リビングラボを立ち上げる際にどこから手をつけたらいいのか?、探索的な共創プロセスをどのように進めたらいいのか?、市民を継続的に巻き込むためにはどうしたらいいか?、市民が参加しやすい場をどのようにつくればいいか?、そもそもリビングラボのような生活者との共創アプローチは効率的なのか?、…。多くのリビングラボ実践者は、様々な難しさや課題に直面しながら、自分たちのプロジェクトを推進しているのです。

こういった試行錯誤的なプロセス自体は問題ではありません。むしろ、リビングラボでは、地域や都市に根差した活動が重要なので、ローカルな人/資源/事情に合わせて、試行錯誤を繰り返しながら柔軟に進めていくことは、本質的でさえあります(注2)。

私がここで問題視したいのは、人々や組織がリビングラボを実践する際に、その「拠り所」となる知識や情報が、日本国内ではほとんど共有されていないということです。

リビングラボの概念や具体的な事例について書かれた英語のマテリアル(レポート、論文、Web記事など)は、一定量存在しています。しかしながら、それらは英語で書かれているため、日本国内の実践者にとって容易に利用可能だとは言えません(注3)。また、リビングラボのローカル性を考えると、そもそも、欧州でつくられた手法や方法論をそっくりそのまま受け入れて適用するだけでいいのか?という疑問も残ります。

この問題は、ひとつひとつのプロジェクトの実践に関する問題というよりは、そのベースとなる方法論や知見、情報が整備されていないことに関する問題です。つまり、この問題の本質は、「リビングラボの実践を支えるインフラ(注4)が整っていない」ということに、まとめることができます。

では、そういった根本的な問題を解決するために、LLLではどのような研究を行うのか…? その具体的な紹介は、後編で述べようと思います。

Author: Fumiya Akasaka (AIST)

(後編につづく)


注1:これは、“LLLとしての”リビングラボの捉え方です。リビングラボには様々な定義があり、その捉え方は、人や組織によって異なります。リビングラボの定義については、今後の記事で詳しく述べようと思います。

注2:北欧の研究者が発表した論文において、リビングラボのプロセスは「事前に定義された目標や固定されたスケジュールに縛られることがない、オープンエンドのデザイン構造(an open-ended design structure without predefined goals or fixed timelines)」と表現されています。
(Hillgren, P. A. et al.. (2011). Prototyping and infrastructuring in design for social innovation. CoDesign, 7(3–4), 169–183.)

注3:言語の違い(英語か日本語か、など)に関わらず、「論文」という形式自体が、実践者にとって有用なマテリアルではないという指摘もあります。
(Colusso, L. et al. (2017). Translational Resources: Reducing the Gap Between Academic Research and HCI Practice. In Proc. the 2017 Conference on Designing Interactive Systems (DIS ’17), 957–968.)

注4:ここでの「インフラ」とは、水道や道路などの物理的な生活基盤のことではなく、G. L. Starが提唱した、「人々の実践を支えるリソース」のことを意味する広い概念です。そのため、知識や情報などの無形のリソースも、インフラのひとつとして含まれます。
(Star, S. L. (1999). The ethnography of infrastructure. American behavioral scientist, 43(3), 377-391.)


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