こんにちは!鰤子です!インド料理関連の記事もだいぶ溜まってきましたね~ここまで重箱の隅を突くような内容のインド料理記事も他にあんまりないんじゃないでしょうか。
今回はガラムマサラについて深掘りしてみましょう。ガラムマサラに関しては、日本では実際のところチリパウダーと並んで一番知名度が高いインドのスパイスの一つかもしれません。インド料理は作らない人でも、ルーカレーにちょっと足す、鶏肉焼いたときに少しかける、みたいな感じで使うのにガラムマサラだけ家にあるっていう方もいらっしゃるのではないかと思います。
このようにガラムマサラは、日本でも日常生活にある程度浸透しており、単純に一つのスパイスとして捉えられがちですが、インドに行って深掘ってみると、実はかなり奥深いものだったりします。
ガラムマサラとは
さて!ガラムマサラは前置きの通り、私たちの日常生活にもすでにある程度浸透していますし、インドカレー作りをしているともはや必須スパイスとも言えるくらいの登場頻度でもあるので、少なくともこの記事をお読みになっている皆さんはもう何度も扱ったことがあるでしょうし、中にはご自身で作ったりされる方もいらっしゃることでしょう!
ガラムマサラは、一言で言うと”インドのミックススパイス!”なのですが、ただスパイスを混ぜればそれでOKというわけではなく、掘り下げてみるとかなり奥深い世界が広がっていることが分かりました。今のところガラムマサラについて詳しくまとめてある書籍もまだないようなので、私が知りうる限りの情報をnoteにまとめます!
名前の意味!
まずその名称についてです。ガラムマサラという名称はヒンディー語で、ガラム(Garam)=熱い、暑い(←気候と温度両方言い表せます)、温かい(”熱い”も指すのに”温かい”も指せる。)、マサラ(Masala)=粉末状のスパイス(主には複数種類の粉末を混ぜ合わせたものを指すことが多い)を意味しています。ちなみに英語でホット(Hot)というと”熱い”も”辛い”も意味してしまいますが、ヒンディー語では”辛い*”は別の単語で表現しますので、ガラムというと”熱い”か”温かい”の意味ですね。
*(いくつか言い方がありますが、最近はSpicyで日本人が言う”辛い”の意味になります。日本でスパイシーというと辛さも含めた、香辛料全体の香りの良さも表現しますが、少し違いますね!)
つまりガラムマサラには本来”辛い”という要素が含まれていないということが言葉から分かります。これが意味するところは、ガラムマサラの役割は辛味付けではないということです。実際のところはガラムという単語から連想ゲーム的に唐辛子が登場するのはよくあることで、唐辛子を含んでいるガラムマサラもありますが、それでも使用して辛くなるほど辛いガラムマサラはないといってもいいでしょう。
ガラムマサラのイメージ
次に、ガラムマサラとは一体どういったものを指すのかをインド人目線で解説します。インドは他宗教多民族なので、ガラムマサラにも相当な種類があるのですが、ここではまずごく簡単なガラムマサラのイメージを共有します。
超簡単に言うと、ガラムマサラは複数種類のホールスパイス(固形状のスパイス)を、用途に合わせてブレンドし、パウダー状に加工して作るミックススパイスの一つです。インドにはガラムマサラ以外にも沢山の種類のミックススパイスが存在しているんですが、その中の一つにガラムマサラというカテゴリーがあるということです。インドのミックススパイスが全てガラムマサ
ラではない点には注意が必要かもしれません。
ミックススパイスのカテゴリーの一つとしてガラムマサラがあるからには、ガラムマサラとは一体どういうものなのか、ある程度共通した認識がインド人の間にあると言えます。ここでその共通認識(と言っても差し支えなさそうな事柄)を以下に抜き出してまとめてみます。ただしこれらの共通認識はあくまで私がこれまでの調査と経験からまとめたもので、インド人の間で必ずしも明文化されていません。「ガラムマサラって何?」とインド人に質問しても下記とは違う返答が返ってくることも普通に考えられるということは先にお断りしておきます。
ガラムマサラの共通認識
・5種類以上のスパイスを使っていること。
・料理用であること。(インドでは飲み物にもスパイス使ったりすることありますので。ミルクティー用のマサラはガラムマサラの一種ととらえる人もいます。)
・料理の香りを良くしてくれるだけでなく健康上のメリットが多数ある!
後はちょっと視点が違うのですが、”市販のガラムマサラは便利でいいけど、やっぱり手作りすると香りが段違いに良い!”というのも一応ガラムマサラに対して皆が持っていると思われる共通認識の一つですね!ちなみに使用するスパイスはなぜ5種類以上なのかというのは話すとややこしくなってくるので、この場ではいったんスルーします。これに関しては記事の最後のおまけ”ガラムマサラなのか、ガラムマサラじゃないのか”で掘り下げてありますので、気になる方はお読みください。
ガラムマサラには2つのタイプがある!
徐々に踏み込んだ話にしていきましょう。実はガラムマサラはその作り方によって2つのタイプに大別できます。これは日本ではあまり知られていないことかもしれません。ガラムマサラのことを順を追って一からきっちり説明していこうとすると、どうしてもいきなりこの話になってしまうんですが、ですけど大丈夫です!2つのうちの一つは日本ではほとんど出会いませんし、また自分で作ろうにもなかなか大変なので、こういうのもあるんやねくらいの話で気楽にお読みください!
では解説に入ります~。ガラムマサラは5種類以上のホールスパイスを組み合わせてパウダー状に加工することで作られるということを先程確認しました。しかし、市場から買ってきたホールスパイスをそのまま一緒くたにして粉に挽いたらガラムマサラになるのかというと、これが実はそうではありません。買ってきたホールスパイスをガラムマサラに加工する前には必ず一度、
①2~3日天日干しにするか、
②タワやフライパンで乾煎りするか、
このどちらかの方法でホールスパイスが含んでいる湿気を追い出し、ホールスパイスのコンディションを整えて香りをしっかりと引き立てます。つまりガラムマサラを作る前には下ごしらえが必要で、その後に石臼や電動ミルでパウダー状に加工し、晴れてガラムマサラが完成するのです。
市場から買ってきたホールスパイスも、もちろん収穫(木の実とか種みたいなものなんで)後に既にばっちり乾燥させてあり、保存性は担保されているのですが、モノによっては乾燥が不十分である可能性があるとか、保存や流通の過程である程度の湿気を含んでしまうと”考えられて”います。”考えられて”いる、と表記したのは実際のところどうなのかは置いといて、なんとなくおまじない的な意味も込めて、再度自分で手を加えて”しっかりと確実に乾燥させたい”と思うからですね。これには暗に殺菌や”浄化”の意味合いも兼ねられていると思われます。なので、最初にスパイスへと加工される段階でばっちりと乾燥させられていたものを、全くの湿気を含ませずに市場から家まで運んだとしても、やはり再度人の手をかけたいと思うのです。
ただやはりなんといっても、ホールスパイスはガラムマサラ作りの前にもう一度乾煎りすると香りが格段に良くなり、それを使って料理を作ると最高に美味しくなるということ、現代においてはこれが一番大事です。この食に対するポジティブな欲求は、どんなに多忙でもガラムマサラを手作りしたいという、現地の人たちの一番大きな原動力になっているのは間違いありません。
話を本題に戻しまして!ガラムマサラは”スパイスを再度乾燥させる”方法を上記の①にするか②にするのかによって、2つのタイプに分かれます。以下でもっと詳しく解説します!
①.使用するホールスパイスを2日程度天日干しにした後にブレンドし、パウダー状に加工する。これを非加熱のガラムマサラ(未調理のガラムマサラ)、カッチャ・ガラムマサラ(Kachcha Garam Masala←Kacchaではないかと思いますし、そう書く人もいますがヒンディー語の発音的にはKachchaになります。)天日干しにする際にはホールスパイスは基本的にはブレンドせずに、天日干し完了後にブレンドします。こうする理由は3点あって、以下のとおりです。
1.ホールスパイスは種類によって形や大きさが違うので、混ぜてしまうとそれぞれの状態を見ながらの天日干しができなくなる。
2.最初にブレンドしてしまうと天日干しの最中に香りが混じって落ち着いてしまう。→香りにメリハリのないガラムマサラになってしまう。
3.状態がそれぞれ違うものを一緒に混ぜて置いておくのがなんとなく気持ち悪い。→天日干し完了後は状態が揃っているので大丈夫です。
②ブレンドしたホールスパイスを乾煎りして冷まし、パウダー状に加工する。もしくは使用するホールスパイスをブレンドする前に単体でそれぞれ乾煎りして冷まし、ブレンドした後にパウダー状に加工する。これを加熱済みのガラムマサラ(調理済みガラムマサラ)、パッカ・ガラムマサラ(Pakka Garam Masala)と言います。この”未調理”と”調理済み”の対立ですが、実はヒンドゥー教徒の料理の中では割りと重要な考え方の一つだったりするのですが、ここでその話をし始めるとそれだけで5000字くらいになってしまうので、またの機会に…。
この調理済みのガラムマサラ”パッカ・ガラムマサラ”は手っ取り早くホールスパイスを乾燥させて作るインスタントな方法と解釈されることもありますが、スピード感だけでなく、天日干しでは出せない香ばしい香りが出せたり、煎りの深さをコントロールすることで香りの強さや香ばしさを微調整できたり、と天日干しバージョンにはない利点があります。また、”火”というこれまたヒンドゥー教徒の料理の中では重要な要素が登場し、ガラムマサラ自体の属性も”未調理”から”調理済み”へと変わるので、決して天日干しに比べてこちらの作り方が単純にインスタントな方法というわけではないと言えるでしょう。このパッカ・ガラムマサラを作るときには、ホールスパイスは一緒くたにしてタワやフライパンに入れて乾煎りする人と、別々にそれぞれのホールスパイスを乾煎りする人、加熱のされやすさに応じてホールスパイスをグループ分けしてグループごとに乾煎りする人とで分かれます。ホールスパイスをあらかじめ混ぜてから乾煎りしないのは、カッチャ・ガラムマサラ作りでホールスパイスを天日干し時に混ぜない理由と同じ理由です。
現在は市販のガラムマサラはそのほとんどが調理済みのパッカ・ガラムマサラであるのと、インドでも都市部ではなかなか天日干しをするというのも難しいので、家庭でのガラムマサラ作りもパッカ・ガラムマサラが標準の家庭も多かったりします。また年がら年中晴天の地域もあまりないので、乾季はカッチャ・ガラムマサラを作って、雨季にはパッカ・ガラムマサラを作るというようにしている地域もあります。
この様な事情により、インドのガラムマサラでもパッカ・ガラムマサラの方が馴染みがある人や地域の方が多いのかも知れませんが、実際、現代のインドでは、ガラムマサラと言えば大体はパッカ・ガラムマサラを指しているでしょう。(同じカテゴリーに分類できるものがいくつかある場合は普通、その中で最も一般的なものが最も簡単な呼ばれ方をします。)もし現地で、目の前のガラムマサラがカッチャかパッカかを確認したいときは、(よほどヒンディー語ができない限り)「このガラムマサラの原料のホールスパイスはSun-dried(天日干し)ですか?それともRoasted(乾煎り)ですか?」のような聞き方をすると通じ易いと思います。Gas(ガス)と返答されることがあるかもしれませんが、その場合は乾煎りです(熱源の対照 天日干し-太陽⇔乾煎り-ガス)。しかし料理をする上では、基本的にはどちらも同じ働きをするので、ここからはガラムマサラと単に表記する場合は、どちらにも当てはまることを述べ、それぞれ独自のことを述べる場合は、パッカ・ガラムマサラ、カッチャ・ガラムマサラと表記することとします。
ガラムマサラの用途
それではガラムマサラが大体どういうものか分かったところで、次はガラムマサラが何を目的として料理に使用されるのかを見てみましょう。ガラムマサラの用途は大きく分けて二つあります。
一.「自分が作る料理に、自分が望む香りを与える」香り付け目的
二.「自分が作る料理を食べさせる人(←自分を含めることもあるが含めないこともある)に望ましい薬効を、今から自分が作るその料理に与える」薬効目的
スパイスは必ず香りと薬効の両方を兼ね備えているものなので、香りはあるけど薬効がないとか、薬効はあるけど香りがないといったことはなく(中には日本人的に分かりづらい香りのものもありますが)、よってガラムマサラも必然的に香りと薬効の両方を持ちます。ですがその中でも、食材をより美味しくするための香り付けに主眼が置かれているものや、香りはもちろん大事にしているけどそれよりも体調のコントロールを優先して作っているものなど、実は一口にガラムマサラといっても、時と場合によって微妙に異なる役割を担っていることがあります。レシピにガラムマサラと単純に書いてあったとしても、それはもはや概念のようなもので、実際にはそこで多種多様なガラムマサラがあてがわれています。
外国人である私たちの間で、ガラムマサラの役割として一般的に語られるのは香り付けの方だったりするのですが、しかし薬効の方もかなり重要です。何を隠そう、ガラムマサラのガラム”熱い、温かい”というのは、ガラムマサラの薬効の一つを表していたのです!
炎の神
というわけで、このガラムマサラのガラムの部分について、ガラムマサラの用途の一つである”薬効”に直結する話なのでここで少し詳しく説明しておきます。この意味を正確に把握するには、ヒンドゥー教徒の人たちが言う「体調の良い、悪い」というのが何と結びついているかを知る必要があります。ヒンドゥー教徒の人たちが日々の暮らしの中で、彼らが健康の度合いを測るバロメータの1つとして日常的に気を使っているものの中に、アグニという神様がいらっしゃいます。アグニ(以下敬称略)は炎を司る神様で常に燃えさかっていらっしゃいます。ヒンドゥー教の考えでは、アグニはみんなの体の中にもそれぞれいらっしゃるとのことで、私達の体の中で私たちが食べたものを燃やし、私たちが活動するのに必要なエネルギーへと変えてくださっていると考えられています。アグニが元気で、その炎がきれいに盛大に燃え盛っているときは、私たちは食べたものをきっちりと消化吸収でき、元気に活動することができます。よりエネルギーを必要とするときは、精の付くもの(←得てして消化吸収により多くのエネルギーを使います。)を食べてその活動に備えることもできます。ところがアグニが弱っていると、その炎の力が弱まってしまい、ちょうど火力の弱い焼却炉に燃えづらいものを入れたかのように、食べたものがきちんと消化されずに消化不良が起こってしまいます。消化不良が起こると私たちはきちんと食事からエネルギーを得ることができないので、体が弱ってしまいますし、それどころか消化不良で体に有害な物質が発生してしまいます。(ダイオキシンが分かりやすい例えかもしれません。)なので、ヒンドゥー教の考え方では、健康でいるためにまずアグニが元気に燃えていられる状態を作ることが大事なのです。
ではそれは具体的にそれは何なのかと言うと、アグニは炎の神様なので、体を冷やすものとは相性が悪いです。氷を入れて冷やした水や、冷静のスープなんかはその典型で、生野菜もそうです。日本で言うと冷たいそうめんや冷や麦、ざるそばもそうです。しかしながらアイスクリームなんかはやはり暑い時期には食べて美味しいと感じますし、そうでなくても食材の属性的に、どうやって食べても体を冷やしてしまうものもあります。しかしアグニの元気を保つためにそういったものを全て避けるのがいいのかと言うと、人間の体はそうではないからややこしい。年がら年中温かい汁ばかり摂っていては体が火照ってしまいますし、暑い時期には冷たいそうめんを食べたりもして、適度に体を冷やすものを摂ることも必要だったりします。しかしそれでも体を冷やしっぱなしで終えないように、アグニを常に元気に保つために、後付で体を温めてくれるサプリメントみたいなものとして、ガラムマサラが活躍するシーンがあります。またアグニの活性化以外でも、ガラムマサラはその時々で様々な薬効を期待され、調合されることがあります…とはいっても!それはアーユルヴェーダの専門的知識がないと難しいですし、あったとしてもアーユルヴェーダはヒンドゥー教徒の医学。遠く離れた場所に暮らす私たちの体には合ったり合わなかったりすることがあることも事実なので、私たちは「ガラムマサラには薬効がある」、そしてその薬効の代表的なものは「体を温めて消化を良くしてくれる」ことである、ということだけ抑えておけば大丈夫です。
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