なぜ都心のウォーカビリティプランが必要なのか
case|事例
(Walkable Cityの著者Jeff Speck氏の論考)
都心の交通に関わる計画は数多あるが、コンプリートストリートプランやビジョンゼロプラン、アクティブモビリティプラン、マイクロモビリティプランなどの計画はすべてウォーカビリティプランに包含されうる。そして、ウォーカビリティの調査(Study)は道路デザインの実施案を必ずしも提案しないので調査を踏まえた計画に昇華させることが望ましい。
人びとは歩くことが便利で安全で快適で楽しければ歩くことを選択する。中でも、便利さと快適さ、楽しさの3つの原則は長期的な計画によって実現されることを忘れてはならない。適切なゾーニングやインセンティブ、手厚い支援が街に開かれた複合用途の建物を実現することに役立ち、そのような建物が人びとに歩き続ける理由を与える。しかし、実現には最低でも1回の政治サイクルが必要で時間がかかる。一方で、街路の修復は1~2年で実行可能で、高い安全性を実現することが可能だ。歩行者の死亡者数は2009年以降、82%も増加しており、安全性の確保は何よりも重要となっている。アメリカの典型的な道路設計は公示制限速度を超過しやすいと、「Killed by a Traffic Engineer」などの書籍でも指摘されている。
では、適切なウォーカビリティプランとはいったいどのようなものなのだろうか。計画の目的はいたってシンプルで、徒歩と自転車をより安全にすることと都心のビジネスを活性化することだと言える。また、戦略もシンプルで、違法なスピード違反を阻止する道路を再設計すればよい。実現するための戦術はいくつもあるが、一般的なプロジェクトでは下記の10の戦術が共通だろう。
余分な車線の撤去:混雑している都心でも交通需要よりも処理能力のほうが高い車線の多い区間がある。その区間の道路空間を再配分することで路上駐車の容量を増やしたり自転車ネットワークを構築したりということが可能になる。
4車線道路の減車線化:追い越し車線がその先で左折レーン(日本では右折レーン)となっている場合、危険を常にはらんでいるし、交通流も非効率となる。道路空間を再配分し、車線を減らし、自転車レーンや路上駐車帯に割り当て直すことで、安全性を大幅に向上させることが可能となる。またそのような断面に再構成しても道路の交通容量はさほど減らない。
車線幅員の適正化:道路構造令に倣った一般の道路幅員は12フィート(3.6m)であるが、NACTOは一般道で10フィート(約3m)、主要なバス路線の通りで11フィート(約3.3m)を推奨している。車線幅員が広くなると速度超過を誘発してしまう。
道路再配分での自転車レーンの設置:戦術1~3で道路空間を他の用途に割り振れる空間を生み出すことができる。その空間はできるだけ自転車レーンとすることが望ましい。また縁石側に配置し、路上駐車帯がある場合はそれで自転車レーンを保護するように配置することが望ましい。
多車線一方通行道路の対面通行化:1950年代から1980年代にかけて交通渋滞を緩和するという名目でアメリカの多くの都心で一方通行化が行われた。しかし、それによって治安の悪化や経済の停滞が起き、今では誤りだったと多くの都市が認めている。それらの都市は対面交通に戻すことで経済の再生に成功している。
信号の全方向停止標識への置き換え:フィラデルフィアの調査で、信号を全方向停止標識に置き換えることで歩行者の死傷者数が68%減少した。全方向停止とすることで自動車の所要時間も一般に長くなると思われがちだが実際には所要時間が短縮する。安全性の面からも効率性の面からも信号は全方向停止標識に置き換えるべきだ。
交差点のコンパクト化:スリップレーンなどを撤去し、できる限り単純な直角交差点とすることで交差点をコンパクト化することが望ましい。交差点をコンパクト化することで横断距離も最小化できる。
沿道の樹木や路上駐車帯での保護:交通流が多い歩道を歩くのは楽しくない。歩車を分離するためにも歩道と車道の協会に路上駐車帯を設けたり街路樹を植えたりすることが望ましい。街路樹はCO2の吸収や雨水の吸収、生物多様性の維持などの効果ももたらす。
路上駐車帯の路面ストライプ表示とセンターレーン表示の撤去:駐車レーンの縞模様の路面標示は資格を制限するため速度抑制効果があり、一方で黄色のセンターレーンは安心感を与えることで速度を出しやすくなるという研究がある。センターラインをなくすことで対面交通を意識し時速7マイル(時速11km)程度遅くなるという報告もある。
データの活用:データと照らし合わせて最大の安全性向上効果が得られる区間に重点的に取り組むことが望ましい。
insight|知見
日本は空間制約が強いので戦術1や戦術2はあまりピンときませんし、路上駐車帯も一般的ではないので、日本との違いを念頭に置いて読むべきかなと思いますが、自転車レーンの設置を優先する点や交差点のコンパクト化する点は参考になる視点だと思います。信号交差点で信号を撤去し全方向一時停止させる運用に変える点も面白いなあと思いました。
ウォーカブルというと歩行者専用化や道路占用による賑わい創出が議論の中心になりがちですが、安全性が同じくらい重要視されていて、道路構造令を変えないといけないというような議論が進んでいることには素直に感心しました。