パリオリンピックの水泳競技はセーヌ川で実施できるか?
case|事例
フランス政府とパリ市はセーヌ川の水質改善を着々と進めており、今夏のパリオリンピックの水泳競技をセーヌ川で実施することに自信を持っている。
一方で、サーフライダー財団が実施した水質調査レポート(フランス語)では、セーヌ川で高レベルのバクテリアが確認されたと報告されており、懸念もある。サーフライダー財団は、昨年の秋以降、パリ都心部2カ所でサンプル採取し水質の分析を行ったところ、基準値以上の大腸菌と大腸球菌が見つかったと発表している。
パリ市の担当副市長は、「9月から3月の寒い季節は、日光の量が少ないため紫外線も少なくバクテリアの分解の不活化が進まず、また雨量が多いため合流式下水道の影響を受けやすく、水質が悪化する傾向にある。サンプルが採取された時期は、この季節に一致しているため季節の影響を受けている。」とコメントしている。
パリ市当局は、水質改善は計画通り進んでおり、水質も年々改善していると認識している。水質を低下させる悪天候がない限り、マラソンスイミングとトライアスロンはセーヌ川で実施予定であるが、悪天候によって水質が悪化した場合には延期や中止もあり得ると考えている。
フランス政府とパリ市などは、総額14億ユーロ(約2,300億円)を投じてセーヌ川の水質改善に取り組んでいる。特に下水による影響を緩和するために、50,000立方メートルの雨水タンクを整備し下水と混じった雨水が直接河川に流れ出ないようにする措置やセーヌ川に浮かぶボートハウスを下水システムに接続する措置などを重点的に進めてる。
insight|知見
生活排水の影響を受けやすい都市内河川の水質改善の難しさが伝わる記事だと思います。親水空間を都市内に整備する場合、植生を増やすだけでなく下水との関係を考慮する必要がありそうです。
一方で、下水道の整備が進むことで河川からの栄養共有が減り、海での牡蠣養殖などに影響がでているという記事を読んだことがあります。単純にきれいにすればいいというわけではなく、都市と共生する流域環境の再生は工学だけでなく様々な学問分野からの多角的な検討が必要ですね。