スコットランドでは物価高騰で移動の不平等さが拡大
case|事例
エジンバラ・ネピア大学(ENU)の発表した論文で、スコットランド国内では物価高騰に伴い移動の不平等さが拡大しており、低所得者や民族的マイノリティ、女性、障害者などの負担が不当に大きくなっていることが明らかにされた。この論文は、スコットランド交通局が実施した調査データ(2,705サンプル)を用いて分析された研究結果に基づいている。
回答者の25%以上が、物価高騰に伴う節約のために普段の生活の中で用いる交通手段を変更を余儀なくされ、約38%は移動回数そのものを減らしている。節約を目的とする行動変容としては、交通手段を変更するよりも、移動回数そのものを減らす傾向の方が強かった。物価高騰による日々の移動への影響は、低所得者や女性、ミレニアル世代、郊外居住者、障害者に対して特に大きく、低所得者世帯は他の属性と比べて最も移動を減らす傾向が強く、女性は男性よりも移動を減らす傾向が強いという結果が得られた。
筆者らは、「生活費に占める交通費の割合が高いため、移動はインフレによる影響を受けやすい。特に公共交通の運賃はインフレ率を上回る上昇率で値上げされており、中央政府もしくは地方政府の早急な支援がなければ、社会的な排除を生む可能性が高い。」と指摘する。また、「運賃の上限制の導入や割引チケット制度、アクティブトラベル(徒歩や自転車)関連インフラへの投資などは、環境負荷の削減だけでなく、社会的不平等の解消にも寄与する。」と述べている。物価高騰による社会的な孤独の発生や社会的格差の増大を避けるためにも、公共交通をはじめとする交通手段をよりアフォーダブルでアクセシブルにする必要がある。
insight|知見
日本では年齢階層と移動の関係の分析はよく目にしますが、社会階層と移動の関係に関する分析はあまりやられていない印象があります。
日本でもスコットランド同様に物価高は続いていますし、経営が苦しい公共交通事業者は値上げを続けているので、社会階層で移動の様相が変わってきていそうな気がします。
また、論文が指摘している通り、ない袖は振れませんし支出制約が強まれば必需財を優先してしまうので、移動の不平等の解消には運賃政策をはじめとするサービスの改善が必要だと思います。移動の制約や不平等はオンデマンド交通や自動運転など技術だけでは解決できないと思います。