良質な公共空間のデザインが犯罪を減らす
case|事例
Future Instituteのレポートは、数十の学術研究やレポート、ケーススタディをメタ分析し、街路景観を先手を打って改善することは警官を増やすよりも価値があることを明らかにしている。
レポートでは、犯罪防止に何が役に立つのか分析された先行論文やレポートがメタ分析され、明るい街路灯や交通静穏化などの簡単な環境改善が、多くのコミュニティを悩ませている暴力犯罪を減らすことに大きな役割を果たし、街路のデザインを改善することが警察官をより多く配置するというデフォルトの対策の代替案になりうることが示されている。
レポートには、アーバニズムについての章が設けられており、その章(建築デザインとコミュニティインフラへの投資)では公共空間のデザインと犯罪の減少との関係について述べられている。要旨は下記の通り。
緑地のメンテナンスは強盗や暴力犯罪を減少させる。
コミュニティの緑地の密度は児童保護サービスの関与を軽減させる。
公園、街路樹、植栽を充実させることで全体の犯罪率および非暴力犯罪率が低下する。
緑地を充実させることは、ストレスや精神疲労、不安、うつを減らし、また犯罪自体も減らすことでウェルビーイングを改善する。
庭の質も重要。ボルチモアでは、木や庭用ホース、芝生の庭がある場合、犯罪が減少する一方で、ゴミが散乱し、芝生が乾燥し、芝刈りがされていない庭がある場合、犯罪率が増加した。
空地を復元すると犯罪が大幅に減少する。
街路灯への投資は犯罪全体の14%を減少させる。
レポートでは、「街路のリデザインと公共交通の強化が地域の安全性を高める最後の鍵である。」とし、犯罪を減らすうえで、街路のデザインが最も重要であると述べている。交通渋滞を減らし緊張を緩和することで暴力は確実に減るし、幹線道路から住宅地へのアクセスポイントを減らすことで犯罪発生率を確かに減らすことができる。これらは、J.ジェイコブスの「活気に満ちた住みやすいコミュニティをつくることで街路へ住民の注意が向き犯罪を減らすことができる。」との主張ともつながる。
insight|知見
街路の安全性を高めるために死角をなるべくなくすことやメンテナンスを適切にすることで人の眼が行き届いているように思わせることが重要であるというのは、日本でも古くから指摘されている点だと思います。
このレポートではデザインの質もさることながら、持続的な維持管理が重要だということが指摘されていると思います。都市がスポンジ化し空き家や空地がこれから増えていくと思いますが、コミュニティ意識も希薄化している中で、地域が自治的に環境を維持管理して地域の環境を守っていくことはさらに難しくなるように思います。警察や行政に任せきりというのも現実的ではないと思うので、都市が縮退していく中での地域の自治は重要な課題だと思います。