都心の経済再生には良質な歩行環境が欠かせない
case|事例
クリスマスを控え実店舗のビジネスは苦境から抜け出せていない。パンデミックと生活費の高騰によってオンラインショッピングが普及し、ひとりあたりの買い物回数は、2019年には年間181回だったが、2022年には年間151回まで落ち込んでいる。英国の大通りでも2022年に過去最多の倒産数を記録しており、2023年末には7件のうち1件は空き店舗というような状況だった。
英国に拠点を置く「Living Street」の最新のレポ―ト「Pedestrian Pound」は、その状況に対する希望になりうる。レポートでは、エリアの歩きやすさと経済の活性度の正の相関関係が明らかにされ、歩きやすい都心は相対的に売り上げが高く、徒歩での来街者は自動車での来街者よりも多く消費する傾向にあることを示している。 この認識はすこしずつ拡がりを見せており、現在では英国のBIDの95%が良好な歩行環境が都心の商業において重要と考えている。
都心は商業施設だけで成り立っているわけではない。都心はあらゆる階層の人にサービスや娯楽、エンターテイメントを提供するハブである必要がある。アクセスしやすく歩きやすい都心へ創りなおすことで、これらの活動を支え、都心のコミュニティの結束を強化することができる。
今回の「Pedestrian Pound」は第3版となる。初版は2013年にされ、2018年に第2版の改定が行われている。第3版は、歩行環境の改善による効果を示す根拠がより強化され、人々の幸福度や健康の向上、コミュニティの強化、環境の強靭性などにも言及されている。
insight|知見
以前、ある都市の都心部でも同様の調査を行ったことがあり、その際も自動車来街者よりも公共交通や徒歩での来街者の年間消費額が高い傾向が得られました。類似の結果を示す調査はほかにもあるので、その傾向は揺るがないものなのだろうと思います。
一方で、施策を進めるうえで、自動車来街者のほうがぜいたく品を購入し、単価が高いという反発は想像されます。私が携わった都市でも同様の意見がありました。ブラジルのクリチバの歩行者専用化を行う際に、ゲリラ的に子どもたちに路面に絵を描かせて反対する大人たちを説得したというエピソードは有名な話です。
ウォーカブルな都市へと改変するためにどういう方法で総意を醸成していくのかというのは、データだけでは解決できない課題ですね。