高齢者にとってウォーカブルなまちの形成に資する都市のイノベーション
case | 事例
歩きやすい・ウォーカブルな地域づくりは、高齢者が安全に、必要なサービスや社交の場へアクセスルートを提供する観点から、高齢者が年齢を重ねても活動的で自立し、社会と関わり続けるための解決策である。現在、米国の人口の約16.5%が65歳以上であり、2050年にはこの数字が大幅に増加すると予想されていることから、高齢者のニーズを満たす都市環境の設計はこれまで以上に重要になっている。ウォーカビリティは、身体的な健康と精神的な幸福を促進すると同時に、コミュニティのつながりを育み、個人と社会の両方に利益をもたらすものだ。
都市部で高齢者が安全に歩くことを妨げるいくつかの物理的な障壁がある。調査によると、高齢者の2~3割は毎年少なくとも1度は転倒を経験しており、その原因の多くは、凸凹の歩道、整備不良の小道、急な縁石などによるものだ。また、CDC(疾病対策センター)によると、米国では歩行者の死亡事故の約20%を65歳以上が占めている。横断信号のタイミングが適切でない場合、横断歩道が十分ではない場合や、自動車の高速走行を抑制できない場合は高齢者にとってリスクが高まる。つまり、高齢者にとって安全でアクセスしやすい歩行インフラは、高低差を最小限に抑えた幅広で、定期的なメンテナンスが施されている歩道である。歩行者用信号の時間を調整することも、高齢者の歩行速度を考慮した重要な改善策である。一定区間ごとに設置されたベンチなどの休憩スペースは、屋外での活動を促し、長時間の歩行による疲労を防ぐ。さらに、日陰の歩道や利用しやすい公衆トイレは都市環境をより魅力的にし、自立と屋外活動への参加を促進する。
都市の技術イノベーションは高齢者のためのウォーカブルな地域づくりに役立つ。フェニックスで導入が開始されたスマート横断歩道は、センサーを使用して歩行者を検知し、必要に応じて信号時間を自動的に延長することで、事故を減らす。高齢者に優しいナビゲーションアプリも、リアルタイムで高齢者の安全な移動をサポートするものだ。自動速度取り締まりやデジタルサイネージなどの交通緩和技術も、高齢者の多い地域でドライバーに減速を促すことで安全性を高める。オハイオ州コロンバスなどの都市で試験的に導入されている近隣エリアの自律走行シャトル、トロントで使用されているようなAI搭載の歩行者の危険管理システム(信号の調整や高齢者横断の際のドライバーへの警告などの機能)も注目に値する。
歩行環境の改善には、地域社会の関与が不可欠で、ポートランドやミネアポリスのような都市では、高齢住民が歩道の破損や危険な横断歩道、休憩場所の不足など、危険な箇所を特定する活動に参加している。こうした取り組みは、安全性を高めるだけでなく、参加者の社会的つながりを築き、孤独感を軽減する上、運動する機会を提供し、コミュニティ意識を育み、高齢者の生活の質を全体的に向上させる。そして高齢者が自立した生活を維持するには、車への依存度を減らすことも重要であり、そのためには、歩道や地元の施設、公共交通機関が利用しやすい地域であることが必要である。
insight | 知見
高齢者も含めて全ての市民が安全で快適に歩ける都市づくりには、記事に示されているようなインフラ整備が重要であり、様々な新しい技術の導入が有効だと思います。
高齢者がまちで歩く際の危険箇所を特定するようなウォーキングプログラムは、インフラ整備面で有用である以外に、高齢者の社会的なつながりや運動の機会提供にもなるので、日本の各自治体も高齢者の健康増進関連の事業の一つとして進めてみていいのではないかと思います。