都市空間の変革:インフラによる分断をデザインを通して再接続
case | 事例
大規模なインフラプロジェクトは、広域の利便性を高めることを目的とされることが多く、プロジェクトによって迅速な交通、物流、商業活動を実現することができる。しかしながら、大規模インフラプロジェクトは、その物理的な存在が地域社会に大きな影響を与える可能性がある。プロジェクトによりこれまで緊密だった近隣地域が分断され、関わりが薄れることや、公共空間が分断されること、また、騒音や公害、インフラへの配慮やメンテナンス不足などにより、屋外での体験が全体的にネガティブなものになる可能性もある。ただ、屋外空間の綿密な設計により、これらのインフラを地域社会に再び統合することも可能である。著名な事例として、パリのクレ・ヴェルト・ルネ・デュモン(Coulée verte René-Dumont)やニューヨークのハイライン(High Line)が挙げられる。これらは、断片化された都市空間をまとまりのある公共の場へと変貌させ、社会参加と経済再開発を促進している。
インフラの影響を受けた地域の活性化に向け、物理的、社会的つながりを再構築し、インフラ構造物がもたらす影響を緩和しながら、住民に新たな体験を提供することを目的として、大規模なインフラを再構築する革新的なプロジェクトも世界中で進められている。米シアトル北部のエバレット市のグランド・アベニュー・パーク・ブリッジ(Grand Ave Park Bridge)は、5車線の高速道路と線路をまたぎ、高低差にも対応する形で、インフラにより水辺と分断された住民が、再び水辺と関わるための新たな展望ポイントを作り出している。この高架歩道は、単に接続の機能を果たすのではなく、滞留したり活動したりする空間としてデザインされている。 フランス西部のビトレ(Vitré)市のビトレ駅のP.E.M. Vitreプロジェクトも、複数の線路を歩道橋でつないでいるが、行き止まりや半円形劇場のような空間を作り出し、滞留することを促し、線路を見下ろすことでインフラと関わり、交流活動を歩道橋上で行うことを可能にしている。上海市宝山区の上海新境地(ニューホライズン・ハイランド・パーク)は、線路によって分断されていた地域を再びつなぎ合わせ、流動的な都市の構造と景観を再構築しているだけでなく、緑地を拡大し、スポーツエリアも整備することで、地域社会の交流を促進する空間を提供している。
高架橋や線路の下には、汚れやゴミが散乱し、日光が届かない放置された空間がよく見られる。酷い場合には、こうした場所が犯罪の温床となることもある。 こうした空間は、都市の有効利用という観点では大きな課題であり、土地利用の制限に関する問題が絡み合うこともよくある。 しかし、都市内のこうした利用されていない「負の空間」は、建築的な介入によって環境を変え、ポジティブな変化をもたらすユニークな機会を提供するものだ。様々なプロジェクトが、これらの過小評価されている屋外環境を創造的に統合することに成功している。これらの取り組みは、困難を抱える都市部のエリアを再考し、新たな目的に活用する可能性を示しており、都市住民にとって価値ある屋外体験へと変貌させることができるのではないか。
insight | 知見
以前当コラムで廃インフラの活用事例の記事を紹介しましたが、今回の記事は既存の鉄道や道路インフラによって分断された地域での、インフラと共存する公共空間の試みを紹介しています。
都市内には幹線道路、高架道路や鉄道により分断された地域はたくさん存在します。これら分断された地域を歩道橋や地下通路で単に「つないでいる」事例は身近にたくさん存在します。つなぐだけの場所から、両側の地域の住民が滞留したり活動したりする空間に作り変えていくことで、両側の地域とも活性化されていくのだと記事を読んで感じました。