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AIが明らかにした都市の公共空間の変遷―社交の場から移動通路へ

case | 事例

全米経済研究所(NBER)、MITのセンシブル・シティ・ラボ、ハーバード大学、香港大学、その他の国際機関の研究者による共同研究で、AIを用いて過去30年間に都市部の公共空間がどのように変化したかを追跡した研究が行われた。1980年代のアーカイブ映像と2008年から2010年の現代の映像を分析することで、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアの4つの主要な場所における歩行者の行動と社会の変化を分析している。この研究は、都市研究家ウィリアム・ホワイトの観察手法を用い、現代の高度なコンピュータビジョンとディープラーニングにより強化し、人々の都市空間の利用を明らかにした。

研究によると、歩行速度の著しい増加が認められ、1980年と比較して2010年には歩行速度が15%も速くなったことが分かった。同時に、公共の場で立ち止まって時間を過ごす滞留行動はほぼ半減した。1980年には43%の人々が公共の場に滞留していたが、30年後は26%に減少している。これらの傾向は調査対象の全地域で共通しているが、ボストンの都心交差点では滞留者の割合が54%から14%へと劇的に減少した一方、ニューヨークのブライアント・パークのような地域では、滞留が比較的維持されている。また、歩行速度のばらつきが増加し、より多様な移動パターンが見られるようになった。速く移動する歩行者がいる一方で、よりゆっくりとしたペースで移動する歩行者も存在するが、その数は減少している。公共空間における社会的交流も大幅に減少している。1人で歩いている人の割合は1980年の67%から2010年の68%と変わらない一方で、グループでの活動は大幅に減少した。1980年には、公共空間内でグループを形成した歩行者は5.5%だったが、2010年には、わずか2%に減少した。研究結果としては、公共空間がレジャーや交流の場としてよりも、通り道として扱われる傾向が強まっていることを示唆している

都市部の所得の増加により、時間はより貴重になり、効率性が好まれるようになり、長居する傾向が減少したと推察されている。他方、メトロポリタン美術館の階段のようなユニークな魅力を持つ場所は、こうした傾向を抗うことができている。高所得者層が住むエリアに位置しているにもかかわらず、この空間では滞留行動がより多く見られた。これは、魅力的なアメニティがあれば、都市環境におけるスピードと効率性の重視が高まる傾向を軽減できることも示唆している。本研究は、都市計画者や政策立案者に、急速な文化・技術変化の時代において都市が活気とつながりを維持し続けるために、公共空間を機能的かつ社会的にも役立つように設計する方法を再考するよう促している。

insight | 知見

  • 丁寧に探していないのですが、今のところNBERとMIT SLのサイトではこの記事で紹介されている研究の論文が見つからないので、時間があるときに読んでみたいと思います。

  • ある程度長く生きているので、確かに感覚的に昔のほうがまちなかでたむろしていた人が多かったのではないかと思います。そういうのをAIを使って定量的に示せるのは面白いですね。