安全性に配慮した道路デザインは沿道の経済活動を阻害しない
case|事例
ワシントン大学によるシアトルを対象にした研究で、安全性に配慮したデザインを施された道路は、沿道の売上を減少させるというよりもむしろ売り上げを増加させる可能性が高いことを示している。研究では、車線を減らし歩道を拡幅した道路、自転車レーンが整備された道路、ボンエルフへ再整備された道路などの7路線を対象に実証的に分析を行っている。結果として、少なくとも整備後7年間、安全性に配慮したデザインが施された道路では、近隣の道路沿道と比較して、課税対象売上高が5%増加したことが示されている。5%の増加は統計的に有意ではなく、サンプル数が少ないという問題もあるが、Vision Zeroを推進する説得力のある根拠になると筆者は語っている。
研究の対象となったような道路空間再配分を行う場合、主に沿道商店主から店舗前に自動車を止められなくなることで、既存来店者の足が遠のき、商売に悪影響が及ぶ懸念が寄せられる。これらはVision Zeroの推進や道路空間再配分の大きな障壁となるが、このような必ずしも根拠のない懸念を研究によって払拭することは難しいと筆者らは指摘している。
その問題のひとつはデータ利用のハードルの高さで、沿道の売上データを使用する際に、利用許諾を得る手続きだけでも膨大な時間と手間を要してしまう。もうひとつの問題は、Vison Zeroなどの適用事例が少ない点で、比較研究をするための対象地がなく、効果検証などの知見をそもそも溜めることができない。
insight|知見
地域経済に対する懸念は、Vison Zeroや道路空間再配分など以外にも、公共交通利用の推進など、自転車の利用を制限する施策全般でみられるものだと思います。この記事にあるように、その懸念は必ずしも根拠があるわけでもなく、思い込みに近いケースも多いように思いますが、その思い込みを覆すのはかなりの対話と労力が必要になります。
やってみたらわかるものですが、ハード整備が伴う場合はやり直すことができないので、実証実験などを繰り返すしかありません。新しいことをやるときには前例が少ないので、根拠が示しにくいというのは、EBPMの課題とも言えそうです。
実証実験は、整備後の環境が代替できる必要がありますし、合意形成をしていくための根拠を適切に取得する必要があるので、実証実験の企画には緻密さや戦略性が求められるように思います。