KKという男
自分が涙もろいかどうか、結構微妙な方だと思う。
アニメやゲームでも泣けることはあるけど、卒業式などでは泣けない。多分それは、心のリソースの割き方なのだと思う。
別に泣くことが尊いわけでも、泣けないから薄情なわけでもない。ただ、涙というものがその人の心の活動であるのは、きっと間違いないと思う。
これは、僕がたかがゲームの大会を見て、不覚にも涙を流してしまったその過程を、ただ淡々と論理的に綴った体験記だ。
KK、という選手と特別な関係ではない。一方的に彼を知っているただの一般市民が、彼の姿に涙した。これは、正直凄いことだ。それだけの魅力が彼にはある。それをただ、言葉にできればそれでいい。
KKが、普通のプロではなくなった時
僕が彼を最初に知ったのは、彼がプロになる前だった。その頃からトロフィー(ゲーム内での実力を表すポイント)が高いことは知っていて、彼がたまにクラロワコロシアムというのを開いたり、チームを作っていたのを知っていて、本当にクラロワが好きな人なんだと思っていた。だから、とてもうまい人であるとは知っていて、クラロワが大好きで、プロになってもおかしいとは思わなかった。でも、当然ながらプロになる人はみんなうまくて、もちろんクラロワが大好きで、特別な付き合いもない僕にとって彼とは、本当に言葉のままの普通のプロだった。
クラロワリーグ2018のシーズン1。彼の所属するゲームウィズは素晴らしい成績を収め、彼も当然それに貢献したが、やっぱり彼は特別印象に残るような選手ではなかった。
しかしいつの間にか、彼の実力は大きく上がっていて、気付いた時には日本屈指のプレイヤーになっていた。まだ目覚ましい結果は伴っていなかったが、彼は見違えるほどに強くなっていた。その間に彼に何があったのだろうか。彼の内側のことは僕にはわからないけど、外側から見える彼は目を瞠るものがあって、それは彼の内側、僕の見えない部分に、何かがあるのだろうと、そう思わせるほどのものだった。そして、僕の中で彼は、普通のプロからプロの中でも特に上手いプロになった。
ゲームに才能はあるだろうか?
きっと、ある程度センスの問題はあると思う。でも、プロになれる選手の中に、そこまで圧倒的な差はないと僕は思っている。
いつだって結果を左右するのは、実力。それを裏付ける自信。その自信を裏付ける努力。そして、それをさらに裏付ける心の強さ。意思の強さ。
あとは、ほんの少しの、気まぐれな時の運。
それだけだ。そして、プロなら誰もが、努力をしている。だからこそプロの世界は厳しい。誰よりも努力したと思っても、結果がそれを表してくれないことがある。
KKが見違えるほどに強くなったからと言って、僕は別に、彼に特別な感情を抱くことはなかった。ただ、彼がいつかの動画で言っていた言葉は、記憶の中に鮮明に残っている。
それは確か、プロになったわけを話していた時。彼は、何かで世界一になりたかった、と言っていた。
誰だって、世界一になれるなら、なりたい。そして、案外世界一になりたい、と言うのは簡単だ。ツイッターのアカウントを適当に作って、俺は世界一になりたい。そう呟けばいい。
だが彼の姿は、彼のその想いを、ツイッターや口で言うよりもずっと明確に物語っていた。それが夢物語ではないということを、彼は実力で語った。
その時、僕は彼が口だけの男ではないのだと知った。本気で世界一になりたくて、そのために努力をしているのだと一発で分かった。カッコよかった。
しかし、彼に特別な感情を抱いたのは、申し訳ないのだが、彼が悔しがっている姿を見た時だった。
彼は実力があって、結果を残していて、でも、彼の壮大な目標のためには少し、結果が足りなかった。僕は、プロ選手が負ける姿を見るのが一番つらい。負けた後に、どうしようもない悔しさを顔に表して、何も変わらないのにただ、一人うつむく姿。
悔しさを表さない選手は凄い。悔しくないから悔しがらない、なんてはずはないからだ。悔しくても、チームの勝利を大切なことだとして、仲間を信じ、まだ自分にできることを考えている。
そういう強さにも憧れるけど、僕の心を強く打つのはやっぱり、悔しがっている選手の姿だ。
そして、その悔しがっている選手の中でも特にその姿が目に飛び込んできたのがKKだった。
誰よりも努力するのはほとんど不可能だ。定義が曖昧だから。でも、誰よりも努力しようとするのは可能だ。それは、非常に難しいけれど。
僕はKKが、誰よりも強くなろうとしていたと思う。少なくとも、そう思わせるだけの鬼気迫ったものを、視聴者に見せてくれていた。
極めつけは、KKが2018年にプロになったときのインタビューで、プロは1年限りのつもりだと話していたにもかかわらず、翌年もプロとして活動を続けたことだ。
その一年を通して彼の中に変化が訪れたことは間違いない。
その時、KKは僕の中で普通のプロではなくなった。
彼のことを応援したい
KKは、そんな選手になっていた。
世界一の壁
クラロワは基本的に、1人で戦うゲームだ。だから、とても強い選手がいればそのチームは勝てる。
クラロワリーグでは特に、それが顕著だった。
みかん坊や選手、Xbow Master選手、Manong jhipee選手、BenZer Ridel選手。それ以外にも、Asiaだけでも多くのスタープレイヤーが活躍してきた。
当然、KKも遜色ないプレイヤーだ。
だが、クラロワリーグはチームでの戦いだ。そして、圧倒的なプレイヤーの牽引するチームは、いつだって惜敗を強いられてきた。
2018年のシーズン2、最後にKING ZONE DragonXを勝利はBIg Daddy選手とHo選手の活躍が著しく、BenZer Ridel選手はワイルドカードに敗れる。
自分が世界一強くても、時に敗れる。全ての戦いに勝つということはあまりに荒唐無稽で、たった一人のエースがその栄光を自らの力のみで得ることはできない。
KKは、クラロワリーグAsia2019、シーズン1のプレイオフにて鬼人の如く振舞った。しかし、最後に勝利を手にしたのは、ゲームウィズではなかった。
なんと険しい道だろうか。努力が実を結んでも、その実はなかなか開かない。硬い殻を、たった一人ではこじ開けられない。
KKはその時、どう思っただろうか。僕にはわからない。
悔しかっただろう。だが、彼は絶対に、自分を責めたに違いない。心無いコメント欄など、彼の精神力の前には何の影響も及ぼさない。
KKは、自分たちの敗北を自分のせいにしたと思う。これは全部、僕の憶測だけれど。
そして、そんなKKのことを思うと、一層彼には世界一になって欲しいと思ってしまう。自分を責めないで欲しいと思ってしまう。
僕には応援することしかできない。きっとそれは何の意味もないだろうけど、それでも応援していた。
戦う理由
プロになりたい。そう思ったことがある。きっと、僕以外にもたくさん、そういった人たちはいるだろう。
それは熾烈な争いだ。どれほど実力があっても、自分以外の理由によって、プロになれない時がある。或いは、血のにじむ努力が結果に繋がらないことがある。それは、プロでなくとも変わらないことだ。
ゲームが好きで、好きで、勝ちたくて、勝ちたくて、たまらなくなってしまう。世界で一番このゲームを愛しているのは、世界で一番このゲームで強いのは、俺だ。そんな思いを、プロじゃなくても抱くことはできるし、きっと抱く人はいると思う。
でも、それを表現する場に立てないものがいる。そんな人たちは、その思いを託すことしかできない。
プロゲーマーになるまで、その人は一般人だ。じゃあ、プロゲーマーになったら、一般人とはどう違うのか。
自分勝手な話だが、僕はプロゲーマーにはその自覚を持ってほしいと思ってきた。
プロゲーマーになるということの本質は、プロとしての社会的地位を得る事でも、リーグに参戦する資格を得る事でもない。
想いを背負う側になる。そういう事だと思っている。
その意味で、プロになったならば、それまでの自分だけの夢、世界一になりたいという夢は、自分だけのものではなくなるだろう。
僕はプロゲーマーには、僕の想いを背負ってほしい。その上で、自分の夢を、みんなの夢として語って欲しい。
KKの新たに所属したPONOSは先週、窮地に立たされていた。強力なメンバーを誇りながら、未だに勝ち星をあげられていなかったのだ。
そんなPONOSの窮地を、KKは自身の能力によって打開。チームに訪れていた負の流れを大きく塗り替えて、続く焼き鳥選手の素晴らしいプレイによって、PONOSが今シーズン初の白星をとった。
そこまでは、僕にとっては喜ばしいことであったが、涙のこぼれるようなものではなかった。
でも、その日の夜、KKはこんなツイートをした。
これを見た時に僕は、何とも言えない痺れを感じた。形容しがたいが、強いて言うならやはり、感動、だろうか。
同い年の男がこれほどの想いを背負い、結果を示しているのかと。悔しさではない。尊敬だ。
そして翌日の試合にて、KKは再びチームの勝敗を分かつ大舞台に出場した。僕は、ハラハラしていた。
KKが勝つだろうと、もちろん信じていた。でも、勝てるだろうかと、不安だった。
勝ってほしかった。応援した。名前も顔も知らない僕の応援を、想いを、ただ画面の向こうに送った。
KKの戦いぶりはそれはもう見事だった。クラロワをしている人ならば、あれ以上完璧なプレイはないと皆が言うはずだ。
僕の応援は意味を成しただろうか。別に僕が生放送を見ていなくても、KKは勝っただろうか。
そんなことは分からない。でも、KKに僕の想いはきっと届いていた。そして、結果を僕に返してくれた。
KKは、世界一になりたくてプロになった。間違いなく、今もその想いは変わらないだろう。
でも、それ以外の戦う理由だって、きっとあるはずだ。僕はKKの姿にそれを感じた。僕らのために、とまではいかないけれど、僕らの応援にこたえようとしてくれている。それだけで、僕には十分すぎる。
だから、自然と涙が出たのだ。僕の想いを背負う彼の想いを感じて、僕は涙を流したのだ。
応援される選手
KKが所属していたゲームウィズのクラロワ部門はなくなってしまった。僕は、監督であった大場さんの言葉が好きだった。
応援される選手になって欲しい。
KKは、その想いも、きっと手放すことなく今も抱え続けているだろう。そして、監督のその想いは、既に十分達成されているだろう。
僕はKKを応援する。彼の姿に、敬意を示して。
これからも、KKの世界一への道のりは険しいはずだ。だが、僕は信じている。そして、応援している。
KKならやってくれるだろう。自分にも、応援してくれる人にも、彼は嘘を吐かないのだから。