078. カントルーブを聴きながらオーベルニュの大地を走る|オーベルニュ編
bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
赤マリアと黒マリア、そしてもう一人のマリアに出会いLe Puy-en-Velayを後にした私たちは、今夜の宿泊先であるオーベルニュの小さな街へ向かった。
カントルーブ作曲のオーベルニュの朝を聴きながら。
*
そうだ、オーベルニュといえばあの曲。カントルーブ作曲の「オーベルニュの歌」。
これはオーベルニュ地方に古くから伝わる民謡を、この地で生まれ育ったジョセフ・カントルーブがオーケストレーションの体裁に編曲したもので、羊飼いの歌。この曲を知ったのはちょうど8年ほど前だったろうか。フランスに留学経験のある声楽をやっている友人に紹介されて以来気に入って、よくかけている。どこか美しい旋律に乗せて響いてくるオーベルニュ地方の言葉は、まるで大地の母からの語り掛けのようだ。フランスで育ったわけではないし、言葉もわからないけれど、その響きにとても懐かしい気持ちを覚える。土地土地に古くから伝わる曲って不思議だ。
特に有名なのが、第1集の第2曲目「バイレロ Baïlèro」で、わたしは朝起きて一番にこの歌を聞くと、一雨降った後の大地に雲の間から太陽が差してくるような爽やかで優しい気分になる。ちょっと不安で眠れなかった次の日の朝とか、もしくはものすごく気分の良い朝に無性にかけたくなる。
バイレロとは羊飼いが遠くの人に呼びかけるための掛け声で、この曲は村娘が川の向こう側にいる羊飼いの男に呼びかけると言うシーンが歌われているそうだ。
あいにくそんなに天気が良くないけれど、バイレロの旋律とともに流れていくオーベルニュの景色をうっとり夢心地で眺めていると、夫が「あれ?」と言った。日本からCDを持ってくるのを忘れたので、アイパットかパソコン?で流してくれていたのだが、どうやらうまく充電できておらず、ずっと流しっぱなしでドライブすることはできなそうだ。
でもいい。バイレロをこの曲の故郷であるオーベルニュ地方を走りながら聴くことができたなんて最高だ。あとはその余韻で旅を楽しめば良いではないか。
と思ったが、今振り返ってみるとこの「あれ?」という出来事がちょこちょこ発生していたのがオーベルニュ地方への旅だった。前回・前々回書いたLe Puy-en-Velayでも閑散期で赤マリアのところまで登ることができなかったし、出発に手間取ってしまったために街に降りてゆっくりとレースを見たり探索したりできなかったし・・。
きっと「もう一度戻ってきなさい」とオーベルニュの大地の母に言われているのかもしれない。たまに「ここにはまた戻ってくるだろう」という予感を感じさせる旅先ってあるのだけれど、オーベルニュへの旅もまさにそんな感じだった。そして、そういう場所って、戻ってきたその時にベストなタイミングで何かが起こるものだ。何年後になるのかな。今なかなか世界情勢が不安定で空を自由に行き来することは叶わないけれど、いつかまた平和な気持ちでこの地を踏める日を心から願っている。それまで、音楽とともにその土地で感じたものを大事に大事に温めておこう。