052. 他国で叶ったアルプスの山々に包まれて暮らしたいという願い
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実は、育児が本当にしんどくて大変だったとき、わたしは密かに母娘で安曇野に移住したいと思っていました。高くそびえ立つ稜線うつしい北アルプスの山々に囲まれていると、とてつもない安心感を覚え、こんなところでのびのびと育児をしたいと願ったのだ。
長野県の松本で生まれ育ったわたしにとって、気がついたら山はそこにいなくてはならない存在になっていた。
かといって、わたしは登山をしたいとか、アウトドアに出かけたいというタイプでもないのだけれど、日々の生活に疲れ、意識がふっと緩んだとき、そこに大きな山があるととても安心するのだ。
夫や県外の友人を松本に連れてくると、周りをぐるりと囲むようにそびえ立つ山々にびっくりされることがある。怖いと言われることさえあって、そんな彼らをみて何も感じていない自分にびっくりしている。そんな時、山というのがつくづく自分のアイデンティティの奥深くに馴染んでいて、もはや普段は意識にものぼらない存在になっているのだと気づくのだ。
アルプスの山々に包まれて暮らしたい。
あの時の自分は、毎日毎日切にそう願っていた。
あの雄大な母のような存在に守られて、のびのびと暮らしてみたい。
しかし、そんな時、わたしに用意されたのは、安曇野ではなくフランス東部の地方都市、グルノーブルだった。
確かに、数年前新婚旅行ではじめてフランスに訪れた時、「いつかここで暮らしてみたい」と願いましたよ。しかし、神様、今なのでしょうか。もう少しあとにとっておいてくださっても良い願いだったのではないでしょうか。
わたしが今求めているのはフランスではなく、安曇野なのです・・。
ちょっとせっかちな神様に文句を言いつつも、グルノーブルについて調べてみてびっくり。そこはなんとアルプス山脈の麓にある都市だったのです。
さらに、グルノーブルは研究機関や大学が多く立ち並ぶいわゆる研究都市。姉妹都市なだけあってホームタウンの茨城県つくば市にそっくり。これはもしかして、つくばにいながら安曇野にも住めるってこと・・?
雪山へ向かうバスの中から。
そう。安曇野に移住となってしまうと、普段つくばで仕事のある夫とは一緒に住めない。週末に行き来するような生活になってしまう。けれど、ここグルノーブルは家族三人で安曇野の山々に包まれながら毎日一緒にいられるという、なんだか願ったり叶ったりな場所だったのだ。
夕暮れ時、西日に照らされた山々が美しい。
フランスは湿度の影響なのか、空の色がとてもはっきりとしている。コントラストを強められた稜線が勇ましく、こちらの山々は安曇野の山々よりもいささか凛々しく感じられた。
安曇野と似ているようでちょっと違う。
それは、家族三人で、新しい場所で頑張りなさいよと故郷に背中を押されているような感覚だった。
バスティーユから見たアルプスの山々。
あぁそうか。あの時わたしが必死に願ったことは、今ここで叶っていたのだ。
神様は決してせっかちだったわけじゃない。
一番最適な瞬間に、家族三人が揃って願いを叶えられる場所をきちんと選んでくださったのだ。
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