Vol.3 雪とジェントルマン
【 フランス滞在記- 到着編 前編 】
おちびさん二人を連れ、友人家族とともに無事日本を出発。
超絶心配していた上海トランジットも、
旅慣れたフランス人救世主との出会いにより無事クリアした私たち。
飛行機の中では、
相変わらず娘の「背中がかゆい!」コールに見舞われ、友人の娘さんは乗り物酔いで辛そうな時があったりと、心配なこともありましたが、やさしい中華航空のCAさん達の支えもあり、なんとか無事パリへ到着(長かった…笑)。
あとは、入国審査さえクリアできれば、
空港の外へ迎えに来る夫に会える。
あともうちょっとだ…。
行きの飛行機の中で居合わせ、ここまでガイドしてくれたフランス人救世主(⭐︎)とは、ここでお別れ。
(⭐︎) フランス人救世主については、前回のブログ「上海トランジットで救世主あらわる」を参照。
フランス人の彼と、日本人の私たちとは入るゲートが違うのだ。
当たり前のことなのだけれど、なんだかちょっと寂しい。
ジェントルマンな彼に、
スーツケースの中へ入れて日本から持ってきたお土産を渡せたらよかったのにな、と思いながら、何度も何度もお礼を伝えてさようならをした。
「また会えるといいなぁ」
さぁ、ここからは自分で頑張る番です。
いつもは頼もしい夫の後にただくっついていくだけ。
楽チンだった空港内でのあれこれ。
しかし、今日はそんな頼りの彼がいないのだ。
パスポートにビザがきちんと入っているのを何度も確認して、
左手には受け答えのカンペや必要書類をスタンバイ。
右手には念のためのポケトーク。
初めての長期滞在、しかもその滞在理由を説明する本人不在で、二家族で乗り込む、というちょっと面白いシチュエーション。
不法移民と怪しまれないように…と準備に準備を重ねた私。
が、しかし。
予想に反して、検問はあっさりと通過。
ホッとするような気がぬけるような感覚のまま、人の流れに乗って、
飛行機から降ろされる荷物を受け取りに行った。
すると、
偶然にもそこで、フランス人救世主の姿を見つけた。
「また会えた…!ちょっと、ちょっと待っててね!」
吐き出されるように出てきたスーツケースをピックアップすると、
すぐさま開けてガサゴソと中身を探る。
「…あった!」
わらび餅と日本酒用のお猪口を取り出す。
はて、フランス人の口にわらび餅が合うのかどうかはわからない。
だけど、こういう時は渡したいから渡すのだ。
彼は、「えーいいのに!」と微笑みながらも、優しく手を出してきてくれて、「ありがとう」と喜んでくれた。
そして、「滞在先まではどうやって向かう?行ける?」と心配してくれたので、夫が迎えに来てくれるんだ、と説明すると、
「それなら大丈夫だね」とまた微笑んだ。
どれだけできた人なんだ、フランス人救世主。
空港の出口まで一緒に付き添ってくれ、リヨン方面のTGV(高速鉄道)の時間を見ようと、駅の電光掲示板の下へ向かった。
すると、
なぜか、どの電車も走っている様子がない。
空港のWi-Fiにつないで、夫からのメッセージを確認すると、
真っ先に飛び込んできたのは、雪に覆われた高速道路の写真。
「どういうこと…?」
どうやら夫は、滞在先のグルノーブルから高速バスでパリへ向かっていたが、大雪により高速バスが進めなくなったようである。
そして、どうしたら良いのかわからず、リヨンへ引き返していた。
動揺してオロオロしながらも、とりあえず、TGVの発券機を見てみる。
しかし、どうやっても乗車券を発券できず、目の前にある鉄道会社のデスクにはたくさんの人が並んでいた。
「雪で電車も止まっているんだ」
「とりあえず並んで状況を聞いてみよう」とフランス人救世主がデスクまで伸びる列に並んでくれた。
そしてようやく自分たちの番が来ると、流暢なフランス語で動いている電車の乗車券を買う手続きを手伝ってくれた。
なんだか楽しそうにデスクの人たちと話しながら。
きっと何気ない光景なのだろうけれど、私は驚いた。
だって、
日本で同じことが起こったら、もっと眉を潜めた人たちがデスクに身を乗り出し、深刻そうな顔をした人がスマホ片手に誰かに電話している…という場面が想像されたからだ。
ここではどこか、
「まぁ、仕方ないよね」という空気があって、
鉄道会社の方からも「申し訳ない」というような雰囲気は感じられなかったし、利用者も良くも悪くも諦めているように見える。
あの時は妙にそんな時間に不思議な居心地の良さを覚えた。
けれど、今振り返って思うのは、
いろんな人に助けてもらう経験が、
「私は守られている」という小さな思いを、自分の中に育ててくれたのだと思う。
パリに住んでいる叔父のもとへ行くというフランス人救世主は、
「もし何か困ったことがあったら連絡して」と連絡先を渡して颯爽と去っていった。
TGVの出発までは結構時間があったので、
PAULというチェーンのカフェで休憩しつつ腹ごしらえをした。
私はその間に夫と作戦会議。
リヨンで落ち合って、友人夫婦はそのままリヨン滞在、
私たちはリヨンからグルノーブルまで電車で向かうことになった。
疲れてぼんやりとした意識の中で、ここまで色んな人がサポートしてくれたことへ感謝をするとともに、それを素直に喜んでいる自分にちょっとむず痒さを覚えながらもほんのり嬉しかった。
幸せってこういうことなんだなぁ。
フランスマジックなのでしょうか。
特に、夫たちやフランス人救世主など、ジェントルマン達からの色とりどりなサポートを自然に受け取って喜んでいる自分にびっくりしていた。
なんだか、自分が知らない自分がそこにいるようで。
よく、海外の男性の方が日本人男性よりもジェントルマンだ、みたいな論調で語られるけれど、わたしはこの時そうとは言えないんじゃないかなと思った。
表現方法が違うだけ。
ただそれだけなのだ。
写真はTGVの車窓から外を見る、友人ファミリーのお父さん。
腕の中には娘さんが眠る。