136. インターネットに繋がれないから土と繋がった
bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
今号はフランスから帰国後、コロナ禍でインターネットに繋がりにくくなって、無性に土いじりをしたくなった時のお話。
*
2020年4月23日。
世界中がコロナウィルスのパンデミックによって大きく揺れ、会社や学校に行けなくなって、みんなが家から出れない生活を余儀なくされていた頃。我が家も例に漏れず夫のリモートワークが始まった。
家の中にはエネルギーが有り余っている3歳児とリモートワークは非常に相性が悪い。夫は縁側に机と椅子とモニターをだし、衝立で区切ってなんとか仕事をする環境を作っていた。
さらに、当時我が家のインターネット環境はポケットWi-Fiだったので、いつものペースでネットに繋いでいるとすぐに速度制限がかかってしまう。これがまた非常にストレスフルだった。そもそも、これまであまり人がいなかった時間帯にもSNSなどインターネット上の世界は混雑している。家の中にいてもピリピリするし、インターネットの世界に逃げ込んでもザワザワするし(しかもネットは低速だ)で落ち着かない。わたしってこんなに短気だったっけ?と思うぐらい、だんだんと自分がトゲトゲしくなっているのを感じていた。
そして、ふと庭に出ると、ボーボーになった野生み溢れる垣根が目に飛び込んできた。フランスに行っている間、剪定されずあっちへこっちへ自由に枝葉を伸ばしていたのだった。
—— さすがにみっともないからちょっと整えよう。
剪定バサミを取り出して、チョキチョキと枝を切り始めたのだが、1時間がすぎ、2時間がすぎ。気がつくと庭のあちこちに剪定された枝葉の山がこんもり出来上がっていた。
枝を切っていると、だんだんと頭の中の神経回路をバッサバッサと切っているような感覚に吸い込まれていって、まるでいらない雑念がはらい落とされていくようでスカッとした。仕事したなぁ、あぁ生きている!という実感が心地よい疲労と共に体全体に広がっていった。
*
翌日。
重たくなった腕をブルブルと振り、ゴミの袋に剪定した枝葉をつめる。しかし、余りの量にだんだんと面倒くさくなってきて、「そうだ、いっその事、埋めてしまえばいいんじゃない?」と穴を掘り始めた。今日は土用の間日(※)だし、土をいじってもいいだろう。
中々帰ってこない妻子の様子が気になって家から出てきた夫が、庭の有り様を見て「いったい何が始まったんだろう・・」というような顔をしてこちらへ向かってきた。気がつくと彼も穴掘りプロジェクトに巻き込まれていた(笑)。
無心になってみんなで土に触れた。その時、日常の一切のざわつきから解き放たれた心が生命力を取り戻していった。そして2023年の今、少し街から離れ「土に触れたい」という、ちょうどあの時と同じような衝動を家族みんなが思い出している。