Vol.27 ストラスブール大聖堂の天文時計
bonjour! 🇫🇷年内最後のフランス滞在記です。今日はクリスマスイブですね。
金曜日更新なので、本当は明日更新なのですが、25日はネットを断ち、海をみながら静かに家族と過ごす時間にしたいと思っています。本年、フランス滞在記を読んでくださった方々に、心より感謝申し上げます。
さて、今日は2019年12月24日、ちょうど今日から一年前のクリスマスイブのお話。
昨夜、初めてみたストラスブール大聖堂の荘厳な姿の印象が焼き付いて離れず、なかなか寝付けなかった私。
次の日、街中をゆっくり散策して、午前中にはストラスブールを出発する予定だったけれど、どうしても、ストラスブール大聖堂の中に入ってみたいという思いが消えない。
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次の日、ちょっぴり寝坊して外へ出ると、歩きながらストラスブール大聖堂が開いている時間を調べてみた。クリスマスイブの今日は2回だけ。その1回目はなんと今から20分後に始まるではありませんか。Googleマップによると、現地点から大聖堂まで歩いて20分ほど。土地勘がない中でまっすぐいけるとも思えないし、何より小さな娘がいる。今回は諦めて帰るのが良いだろう。でもまたいつか、絶対来よう。と肩を落とす。
しかしながら、あんまりにもくっきり私の顔に後悔の念が滲んでいたのか、見かねた夫がベビーカーを押しながらこう言った。
「行って来なよ」
思わず夫の顔を見返す。
「え?・・いいの?」
「早く!後悔しないように!!」
夫に背中を押されて、私はストラスブール大聖堂まで一目散に走り出した。
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しかし、こういう時に限って、Google先生はトリッキーな経路選択をしてくれるものだから、元々方向音痴な私は混乱してよくわからない通りに入り込んでしまう。
・・も〜!こういう時に限って・・・!!!
仕方がないので、恥はかき捨てと言わんばかりに人に聞きまくる。
走って走って、なんだか今までとは違う雰囲気の通りへ出た。すると目の前にはクリスマスの喧騒とは一線を画する、赤褐色に輝くアシメトリーな建物がすっと天まで伸びていた。
やっと着いた!!
しかし入り口には長蛇の列。第一回目の閉館時間は刻一刻と迫っている。
果たして間に合うのだろうか。
時間を何度も確認しながら列の進みに気を揉んでいると、すっと横から上品なマダムが入ってきた。
彼女はまるでいつも会っている間柄のように、ものすごくフレンドリーに話しかけてくる。普通に考えたら割り込みなのだけれど、不思議と悪い気がしなかった。クリスマスマジックだろうか。
「bonjour!madam」
そして英語で、ここへきたことがあるかと聞かれ、初めてだと返すと、
「très bien!!(素晴らしい)」
この地も建物も歴史的にとても意味深い地で・・云々。マシンガンでストラスブール大聖堂の説明をしてくれた。
残念ながら私の語学力ではほとんど理解できず、「d'accord?(わかった?)」と目を輝かせるマダムに「すみません、あまり英語が得意でなく・・」と煮え切らない言葉を返すと、「Don’t mind madam!! 」と肩をポンと叩いた。
不思議なことに、私たちのすぐ後ろで入場制限がかかり、私とマダムのすぐ後ろで開館が締め切られた。すぐ後ろの人へちょっと申し訳ないような気持ちになり振り返ると、
「madam!!」
先程のマダムが入り口の扉を入ったところで手招きしている。
「Have a nice day」とにこやかに笑いかけると、マダムは真っ直ぐに祭壇に向かって歩いていった。入り口の扉が閉められる音がして、後ろを振り返ると、頭上には有名なバラ窓のステンドグラスがあった。
ちょっとフリーズしていると、あと五分で閉めます!とアナウンスがかかり、初めて出会った感動を堪能するのもそこそこに、聖堂の中を駆け足でぐるりと歩き回った。
スタッフの閉館します!という掛け声に追い出されるかのようにまたバラ窓のステンドグラスの方へ向かって歩き、外へ出た。一瞬の出来事だった。
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外はあまりにも寒いので、クリスマスマルシェでホットワインを買って、握りしめながら家族の元へそそくさと戻っていると、鐘の音が聞こえてきた。
鐘の音は乾いた空気に乗って、ストラスブールの古い石造の建物と共鳴するかのように、街中にこだまする。私は気がつくとストラスブール大聖堂へ走って引き返していた。
鐘の音はどんどんと大きくなっていき、またあの赤褐色の大聖堂が姿を表した。
人が一人また一人と大聖堂の周りに集まってきて一緒に上を見上げた。
鐘の音が鳴り終わると、ハッとして家族へ連絡をとる。
広場にいるというので全速力で走ってそちらに向かうのだけど・・着かない。
なぜか、同じ通りをクルクル回って気づくとまた同じ場所へ帰ってきてしまう。
こういう時はスマホだ!グーグル先生だ!と、スマホで地図アプリを開くも、なぜか矢印がぐるぐるとまわり続け、電源が落ちる。
どうしたんだ、グーグル先生。
それからうまく電源がつかなくなり、こういう時は動かぬが吉だと判断して、電源が着いた一瞬を掴んで、夫へ連絡して事情を説明し、わかりやすいように大聖堂前で待ち合わせをした。
私はよくこういう風に迷子になるので夫もやれやれ、という感じだ。夫はショッピングセンターで娘に白いドレスをねだられているらしく、買っていいかと聞くので、もちろん、もちろんと答えた。
しばらくして夫と娘と合流する。
私があんまりにもストラスブール大聖堂を絶賛するので、そんなに言うなら見てみようと、最後の回に家族みんなで並ぶことにした。
開館30分前だと言うのにすでに列ができている。かじかむ手を擦りながらその列に並んでいると、ぼつぼつと冷たい雨が降ってきて、急いで娘のベビーカーに雨よけのシールドをつける。こう言う時に限って傘を持ってこなかった私たちは、手に持っていたもので頭を覆い凌いでいると、前方に並んでいた家族が傘を一つ貸してくれた。
吐く息は真っ白で、外の空気はとても冷たいながらも、人の暖かさに触れて内側はほっこりと温かくなった。
そうこうしているうちに、いよいよ開館の時間となり、大聖堂の扉が開く音がした。係員が列の前方の人を誘導しはじめると、長い列がぞろぞろと動き出した。
歩みを進めながら、今か今かと自分たちの番を待つ。
いよいよ大聖堂の中へ入った時の風のない、なんとも言えない温かさを身体がまだ覚えている。
家族でぐるりともう一度聖堂の中を歩いてみると、祭壇の右端に、大きな天文時計を見つけた。これがあの、天文時計・・。見事である。
そうか、これを見つけるためにもう一度入ったのか、とさえ思った。
古くから非常に正確に時を刻み続けてきたこの時計は、時計というよりもはや緻密な計算機。人の一生を表しているとも言われている。
フランスとドイツの領土争いで揺れたこのストラスブールでの時間を、この時計は刻々と刻み続けてきたのだろう。
外側の現実がどんなに揺らいだとしても、私の内側の時間は揺らがない、と言わんばかりに。
その余韻を残したまま、私たちはストラスブールを後にし、急いでグルノーブルまで車を走らせた。
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本当は、コルマールとか、色々と寄ってみたい場所はあった。
特に私はヘルマン・ヘッセにゆかりのあるマウルブロン修道院に行ってみたかったのだけれど、クリスマスイブとクリスマスは修道士だけで祈りの儀式が持たれるようで、一般の人間は入れない。残念だけど、また必ず来る場所だなと思う。
さぁ家に帰ろう。
途中、どこかでクリスマスディナーを食べれないかと淡い期待を寄せて、高速道路をおり、いくつか他の街を巡ってみた。しかし、どこも街の灯りは消え、いつもは人で賑わうであろう通りも、しんと鎮まり返り、深い静寂に包まれていた。
街が一段と華やかになる日本のクリスマスと大きく違い、キリスト教圏ではクリスマスは家族と静かに過ごすようだ。まるで日本の大晦日である。
結局ディナーには、唯一空いていた中東系のレストランでファラフェルを食べた。
お腹を満たして車へ戻ると、冷たい空気の中に吐いた息の中にほんのりと香辛料の香りが漂った。夜はこっくりと深くなり、空には満天の星が輝いていた。
ストラスブールへ向かう道ではいくつもの虹の下をくぐってきたが、帰りの道ではたくさんの星々に包まれながら、家路に着いた。
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ここまで、フランス滞在記を読んでくださり、本当にありがとうございました。
今日からクリスマスバカンスをとります。1月はお休みをいただきまして、次は2月5日の金曜日にまたお会いいたしましょう!🇫🇷
皆さまも、よきクリスマス、そして年末をお過ごしくださいね^^
mercibeaucoup🕊
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