ホンダ N-ONE RS (6MT)は果たしてかわいいのか
ホンダの大ヒット作、N-BOXを筆頭とする軽自動車シリーズのNシリーズのN-ONEがフルモデルチェンジを行ったのは記憶に新しい。そのフルモデルチェンジでほとんどデザインコンセプトを変更しないという驚愕をもたらしたのだが、スポーツカーファンとして気になったのは、S660を据え置く形で登場した6MTを搭載したRSグレードの登場だ。今回はそんなRSグレードへ試乗してみることとした。
そもそもNシリーズのコンセプトは軽自動車でありながら普通車に匹敵するクオリティを与えることで、従来の軽自動車のユーザーはもちろんのこと、普通車のユーザー層までも取り込むというものだ。確かにNBOXは内外装はシンプルで質感も高く、装備も普通車と何ら変わらない。軽自動車特有の走行性能の低さに目をつむればコスパ最高の買い物といって差し支えないものであった。
そんなNシリーズの中でのN-ONEの立ち位置は、かわいらしくて走りのいい車といったところだろうか。フロントデザインには丸っこいかわいらしヘッドライトが2つと、それを繋ぐシャード―としてグリルデザインが施されたかわいらしいタヌキ顔だ。フォルムもほかのNシリーズと比べ丸みを帯びており、クラシカルなスタイルも似合う。また、Nシリーズの中で最も走りを強調しており、ホンダはワンメイクレースを催すなどしていた。そんなN-ONEの中で一番の走りのモデル、RSはどのような出来だろうか。
さて、以下は実際に車に対峙してみての感想である。ボディカラーはテーマ写真のそれと同じ黄色であった。期待を裏切らず、外装の質感は高い。さっそく車に乗り込んでみる。内装の質感も申し分ない。フロントシートやダッシュボードに施されたオレンジ色の装飾がスポーティだ。ところで、このRSのボディカラーは黒、白、深緑、黄色、オレンジの5色から選べる。私の趣味から言えば、緑色が上品なかわいらしさがあって好みなのだが、内装色は黒とオレンジの1パターンしかない。緑のボディにオレンジ装飾の内装なんて似合わない。他グレードからの流用でいいので、緑色と白に関しては真っ黒やアクセントの内装などにしてほしいところだ。
さて、乗り込んでみると、外装と同様、写真を見て期待した通りの内装の質感は実物を見ても健在だ。ただし、リアはこの限りではない。リアシートは4方を真っ黒な硬質プラスチックに囲まれていて商用車に乗っているようで決して居心地はよくない。このリアシートに5時間以上滞在する際は抗うつ剤を持っておくことをおススメする。ただし、前後ともシートの出来は良かった。
MTモデルの生産台数は多く見込めないにも関わらず、ペダルレイアウトは自然だ。シフトレバーの位置も私は違和感を感じなかった。ただ、どう調整してもステアリング位置が遠くなってしまった。もしかしたらこの車の主流であるAT車にはハンドルがなくて、ハンドルだけ突貫工事で作ったのかもしれない。
さっそく走りに関してであるが、パワーは必要十分といったところだ。トルクフルな実用ユニットは大人3人が乗っていても、モタつくことなく車体をグイグイ引っ張っていく。もちろん、レットゾーン付近での盛り上がりなどはないが、低中速域で盛り上がるトルク感はこの車の性格に合っている。また、2000回転以上くらいの領域ではフロントシートでは子気味いい吸気音が取り込まれ、スポーツ感の演出もすばらしい。
ホンダはこの車を作るにあたって、MTにはこだわったようだ。まずはシフトレバー。細かいことはここでは割愛するが、私が乗ったことのあるFF車のMTの中でもっとも操作感が良かった。ストロークは短く、その操作感にもしっかりした節度感がある。また、クラッチにも継合速度を制限する機構が組み込まれているようだったが、そのおかげか私がミートポイントを間違えても不快なほどのショックはなかったし、そのショックの吸収のしかたもブッシュが大きく捩れるようなものではなく、ケース内で衝撃を吸収しているのが伝わってきた。これは加速感のダイレクトさにも直結しているはずだ。
ハンドリングは大袈裟に鼻をコーナー内側に向けるようなものではなく、弱アンダー気味にジェントルに曲がっていく印象であった。もちろん、限界を探りながら目を三角にしてコーナーを攻めたくなるようなスポーツカーライクなものではないし、背が高くて幅のない軽自動車であるからその動き方は普通車ほどのものではないが、軽自動車のなかでは質感の高くて安心して乗っていられるものであった。
快適性に関しては、静粛性は軽自動車としては十分だし、古い普通車よりもよっぽど静かだ。フロントシートではRS専用サスペンションは乗り心地とハンドリングの両立ができていたが、リアに収容されていた友人は跳ねまくって酔うと言っていた。この車の後席に乗り込む際は抗うつ剤に加え、酔い止めも必要そうだ。
ただし、そのハンドリングや乗り心地の評価も、「軽自動車として」という但し書きを添えなければならないのは事実だ。軽枠の中に収め中ればならない軽自動車の最大のネガであるサスストローク不足は今回も多分に感じた。大きな段差に対してはサスペンションだけで衝撃を吸収できず、車体は大きく揺さぶれれる。特にコーナリング中に段差に遭遇した際には高い着座いい地も相まって車が揺さぶられて怖かった。
総評としては、私はこの車が気に入った。ドライバーとして使う分にはこの車の嫌な点はハンドルの遠さとサスペンションのストローク不足ぐらいで、それを上回るほどの質感とデザイン性、快適さとスポーティーさの両立がこの車にはある。この車を日常のアシとして使えば、かわいらしいデザインとストレスにならない程度のスポーティさが生活のスパイスになるであろう。
さて、最後にこの車の価格を見てみよう。この車の本体価格は1,999,800円(以下全て税込表示)である。ちなみに、この価格は1,537,800円というアルトワークスの価格を大きく上回り、スイフトスポーツの2,017,400円という価格に匹敵する。
しかしながら、これは普通車と互角に戦える品質を持つNシリーズの価格設定としては妥当なのかもしれない。
そう思ったので、私はNシリーズの大黒柱、N-BOXの価格を確認してみた。すると、NBOX・L ターボ 2WDの価格は1,758,900円であった。
ここで疑問が浮かぶ。どうして質感の高いリアシートとスライドドアのついた車より、後席がプラスチックボックスである車の方が15万円ほど高いのだろうか...。
結論としては、この車はとてもかわいくて楽しくて走りの質感も高く車として健全な付き合いのできる良い車である。ただし、価格に関しては、私は全くかわいらしさを感じることができなかった。せめてN-BOXと同等の価格であれば十分にかわいらしかったのだが...。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?