絵本探求講座第4期(ミッキー絵本ゼミ)3回(11月12日)振り返り
好きな翻訳家 なかがわちひろ
私のよく読む絵本はなかがわちひろさんの訳した絵本が多い。
「たくさんのドア」「わたしとなかよし」「ハグしてぎゅっ」
「ちいさいあなた」「そらはあおくて」など
翻訳について考えたことは今までなかったが、たまたま、なかがわちひろさんの訳の絵本を選ぶことが多かった。また、「わたしとなかよし」はタイトルが原書と違うことを講義で聞き、興味を持った。
そこで、今回、改めてなかがわちひろさんの翻訳絵本についてみていくことにした。たくさんある中から、よく読む「わたしとなかよし」、翻訳絵本賞の「どうぶつがすき」ユニークな絵本「ことばコレクター」、大人向けの「ちいさいあなたへ」の4冊につを選びました。
なかがわちひろさんについて
なかがわちひろさんは、ご自分で絵本も作られていますが、翻訳されている絵本は100冊くらいあり、翻訳絵本の印象が強い。
ミッキー先生も講義で言われていましたが、幅広く、いろいろな作家の翻訳をされていました。
「わたしとなかよし」の翻訳について
原書、直訳、翻訳をみていきました。
原書:I LIKE ME!
直訳:わたしは私が好き
翻訳:わたしとなかよし
*タイトルが私が好きという直訳から、
なかよしであることが、自分を好きなこととしてとらえ、
やわらかい感じとなった。
原書:I have a best friend
直訳:私は大親友がいる
翻訳:私にはすてきなともだちがいるの
*大親友を「すてきな」という形容動詞を使い
子どもにわかりやすい言葉・ひびきにしている。
原書:That best friend is me!
直訳:その親友は私だ
翻訳:それはね、わ・た・し
*語りかけている、インパクトがある
原書:I do fun things with me. I draw beautiful pictures.
直訳:私は私と一緒に何かするのが好き
私は美しい絵をかいた
翻訳:私はひとりぼっちじゃないんだよ
わたしはね、わたしといっしょにおえかきしているの。
*わたしと一緒だから、ひとりぼっちではないと反対語のように表現
原書:I ride fast !
直訳:私は早く乗れた
翻訳:じてんしゃをびゅんびゅんこいでいるときだって、わたしはわたしといっしょなの
*自転車に乗っている絵なので、自転車をびゅんびゅんこいで、と。
早くこいでいることを「びゅんびゅん」とオノマトペを使って表現している
原書:And I read good books with me!
直訳:それと私は私と一緒に良い本を読んだ
翻訳:わたしはわたしに、おもしろいほんをいっぱいよんであげる
原書:I like to take care of me.
直訳:私は私の世話をするのが好き
翻訳:わたしはわたしをだいじにするの
*世話をすることをわかりやすく「だいじにする」と
原書:I brush my teeth
直訳:私は私の歯をみがく
翻訳:だから はみがきもするの
原書:I keep clean and I eat good food.
直訳:私をきれいにして保つ、おいしい食べ物を食べる
翻訳:からだもきれいにするよ。ごはんももりもりたべるよ
*もりもりたべる、と楽しい感じに表現している。
原書:When I get up in the morning I say,Hi , good looking!
直訳:私が朝起きた時、私は「良い姿だね」と言います
翻訳:あさおきたら かがみにむかってごあいさつ「おはようきょうもかわいいね」
*良い姿を「かわいい」とシンプルでわかりやすく表現している。
原書:I like my curly tail, my round tummy, and my tiny little feet.
直訳:私はカールしたしっぽが好き、丸いおなかもすき、小さな小さな足もすき
翻訳:くるくるしっぽも まんまるおなかも ちいさなあしも、みんなだいすき
*「くるくるしっぽも まんまるおなかも」こどもにわかりやすく、親しみやすく笑える表現。
原書:When I feel bad
直訳:ダメと感じるとき
翻訳:げんきがでないときには
*否定的な表現を少しポジティブな感じに
原書:Ⅰcheer myself up. When I fall down,
直訳:私は私自身を応援します。私が倒れたとき
翻訳:うんとたのしいことをしてあそぼう。ころんだときには
*わかりやすく想像しやすい
原書:I pick myself up. When I make mistakes,
直訳:私はからだをおこします。ミスした時は
翻訳:ちいさなこえで「へっちゃらへっちゃら」ってはげましてあげよう。
しっぱいしたってだいじょうぶ
*肯定的な表現に、安心できる。
原書:I try and try again!
直訳:チャレンジします。何度も。
翻訳:おちついて もういっぺん やれば きっとうまくいく!
*語りかけている、おまじないのように。
原書:No matter where I go,or what I do
直訳:何所に行っても 私は何をするか
翻訳:せかいじゅう どこにいたって なのをしていたって
原書:I’ll always be me, and Ilike that!!!
直訳:どこにいっても私は何をするか私はいつも私 私は私が大好き
翻訳:わたしはいつも、わたしといっしょ。ね、すてきでしょ。
*最後も語りかけて終わっている。ひびきがよい。余韻が残る。
「わたしとなかよし」は子どもだけでなく大人にも読まれている絵本です。
自分となかよしになって、自分を大切にすること、自分の行動をすてき、自分のことをかわいいと思えるメッセージ性のある絵本です。
なかがわちひろさんの翻訳で、楽しく笑って読める素敵な絵本になっています。
「どうぶつがすき」について
この絵本は「第17回日本絵本翻訳絵本賞」受賞(2011年)しています。
どうぶつがだいすきな女の子ジェーンの物語。動物学者ジェーンの子ども時代を描いたユニークな絵本です。
タイトルは「Me…Jane」「わたし、ジェーン」
ジェーンがだれなのかわからないと手に取らないかもしれません。
日本語タイトルは「どうぶつがすき」なんだか動物の楽しいおはなしかも?と、タイトルと表紙の絵からわくわく感があります。
原書を見ていないのでわからないのですが、
リズミカルな言葉、「あきることなく」「もぐりこんだ」「しんぼうづよく」「いきをひそめて」「しんぞうがうごいている」「どっくん。どっくん。どっくん。」「ゆめはふくらみました」と、
日本の子どもたちにわかりやすい言葉を使っていて、想像力が膨らみます。
わくわく、どきどき、冒険している感じになります。
絵も優しい絵と動物や植物のスケッチや版画?などでユニークです。
最後のページはチンパンジーの写真。
どうぶつがすきだった女の子の話で、タイトルがこのお話にぴったり。
なかがわちひろさんがこの本を読みこみ、この女の子の気持ちをシンプルにタイトルにしているところが翻訳として素晴らしいと思いました。
「ことばコレクター」について
このブログから、ちひろさんが、ぴったりの日本語を探すのに苦労されたこと、作者の伝えたいメッセージを考え、それを翻訳しても同じように伝わるように考えられていること。ひとつひとつの言葉をあてはめ、根気よく言葉を考えあてはめられた様子がよくわかりました。
灰島かり先生が書かれているように、なかがわちひろさんもその絵本を丁寧に読み、しっかり把握した上で、原文や絵本の内容にぴったりの日本語を考えたり探して翻訳されていることがわかりました。
「ちいさなあなたへ」について
タイトルも「いつの日か」より「ちいさいあなたへ」の方がメッセージのある内容の絵本だとわかる。子育てについて、文化的な違いについても検討して、ぴったりの言葉にしたことが伺える。疑問に思ったことは直接、作者に聞き、伝えたいことや意味、根拠など作者の意図や重いを大切にしたうえで翻訳していることがわかった。それらをふまえた上で、自由に楽しんで翻訳している様子が伺えた。
、
翻訳についてのまとめ(なかがわちひろさんの翻訳から)
灰島かり先生も翻訳に正解はない、自由度も大きくやりがいがあると言われているように、なかがわちひろさんは楽しんで翻訳されていると感じた。
制約のある中で、作者のメッセージを大切にしながら、日本の読者を対象としたわかりやすく伝わりやすい言葉に訳されている。
石井桃子さんや松岡享子さん、灰島かり先生に続く現代の魅力ある翻訳者ではないかと思いました。
なかがわちひろさんの翻訳絵本を読むことが多いのですが、まだまだ読んだことのない絵本があるので、これから読んでいきたいです。
そして、翻訳絵本についてのエピソードなど、ブログに書かれているのでそちらも拝見していきます。皆さんものぞいてみてください。
参考文献
「絵本翻訳教室へようこそ」灰島かり 研究社 2021年
「石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか」竹内美紀
ミネルヴァ書房 2014年
「ベーシック絵本入門」生田美秋・石井光恵・藤本朝巳
ミネルヴァ書房 2013年
絵本の絵を読み解くことについては、次回の講座後に。
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