あらゆる水とのたたかいーその1・雨
優雅だった2018年
CURLY FLATS FARMに初めて動物たちがやってきて、牧場として本格的に稼働し始めたのが2018年。
当初は、自給飼料やより典型的な循環型農業を営むという野望のもと、牧草の他にとうもろこしやひまわり、小麦を栽培していました。
それに、家庭菜園からは(土づくりがうまくいかず、保水力のないカピカピの土のままではあったが)曲がりなりにもトマトやキャベツ、セロリなどを収穫できていました。
冬場はそれでソースを作ったりね、優雅にやっていましたよ。
止まない雨
少しおかしくなったのがその翌年のこと。
夏に降り始めた雨がいつまで経っても止まない。
(止まない雨はない、という励ましの言葉を疑わしく思うほど止まない。)
あまり中身のなさそうな小麦を収穫して、少なくともロールにして冬場の餌や敷料にしようとしましたが、さて雨が止まない。
夏の間に大きく育ったひまわりも、収穫して種を採り、茎を畑にすき込む予定でしたが、止まない。
待っても待っても止まない。
結局、ほとんど倒れて水に浸かり腐ってしまいました。
温暖化ね〜異常気象ね〜などと軽く考えて、来年こそはと意気込んでいましたが、翌年からさらに長雨、大雨、ふれば土砂降りに1年中振り回されることになったのです。
浸水被害
放牧地は水に浸かり、豚たちが暮らす木造の小屋からは多くの避難民が一時凌ぎの屋根の下に逃げ込んでいましたが、そのまま暮らすことになるほど、水が引く暇のない大雨でした。
浸水対策のために建て替えた小屋はパレットで床をかさ上げされましたが、繰り返す雨のためにこんどは壁や屋根が腐ってきました。
羊たちはぬかるみを歩いて放牧地に行かなくてはいけなくなり、足を痛めるものが出てきました。
ついに2022年は春の雪溶けの前に大雨によって雪が溶け、かつてない浸水被害を受けることになりました。
豚たちの放牧地の半分は年中水に浸かり、せっかく建て替えた家を諦めて高台に新築することになりましたが、その家もさらなる土砂降りによって浸水する羽目になってしまいました。
水抜き用のドレンを掘ったり、土や砂利、砂を入れてかさ上げした上に大量の籾殻を入れるなど手を打つものの、いたちごっこのようになり、いつしか放牧地への配膳の車両は水の中を進む船のようになりました。
高台で唯一浸水を免れた山羊たちも牧草地への経路を水で遮断されたため、ついに小屋の周りだけで生活し、人間たちが持ってくる牧草や配合飼料などに頼ることになりました。
降れば土砂降り、長雨の時代へ
人間たちは、これはもはや動物たちを放牧しておける状況ではないと考えるようになりました。
一部の羊たちがそうしているように、屋内の畜舎で寝泊まりして日中だけ放牧地に出かけるような形にしていかなければ、安心して休める住まいを保障できないかもしれません。
しかし屋内の畜舎の部屋数には限りがあります。
グッと数を絞る必要があります。
時間がかかります。
長雨で外へ出られない日が続くと、どの動物もストレスが溜まっていくかもしれません。
なかなかの難題です。
(ちなみに、農地法というのがあって、放牧地や畑に基礎のある本格的な畜舎などの建物を建てるのは基本的にはできないことのようです。)
気象条件は悪くなることはあっても、よくなることはなさそうです。
飼料原料の高騰に備え自給飼料を増やしたいのは山々ですが、おそらくもう2018年のシーズンのような飼料に使える作物を大規模に栽培することは難しいのではないかと思います。
そうであれば、それなりにやっていくほかないのでしょう。
雨がちの気候にも強い飼料用の作物を植えるか?
そんなものはあるのか?
畑をやるなら極早生の作物か、ビニールハウス?
ビニールハウスなら浸水を免れるのか?たぶん、そうではない。
人間は欲深いもので、煩悩まみれです。
そう簡単に切り替えられるものではないようです。
現状維持バイアスと言われるものかもしれません。
ここまで苦労してもまだ、なんとかなるのではないかと考えてしまいます。
Regenerative Agriculture(環境再生型農業)の考え方に沿って運営しようとしているこのファームとしては、まだ土のあり方、植生を変えたらたとえ大雨が続いたとしても、土の流出やぬかるみの発生、そして排水が少しは違うのではないかという考えを捨てきれずにいるのです。
またさらに悪あがきをしてみる
というわけで、ファームの人間たちは煩悩に思い切りまみれてみることとして、来シーズンは動物の頭数を減らしつつも空いた放牧地を使って実験してみたいと考えています。
豚が使った後の放牧地はほぼすべての植物の根が食べられ、石やプラスチックや土自体も掘り起こされて更地の状態です。
それがぬかるみや、保水の悪さ、土の流出を悪化させる原因ともなっています。
それでも数ヶ月待つとびっしりと密度の濃い草が生えてくることはこれまで豚の放牧後の土地の様子からわかっています。
土をしっかり調べてから家畜のフン以外に必要な成分を与えて、雨や強い日差しから土を守ることに適した多様な植物を繁茂させてみて、はたしてこの新しい気象条件で健康な放牧地を維持できるのか、そして、いまのところはまだうまくいっていない「土地を休ませる」ということを放牧のシステムの中にどうやってうまく組み込んでいくか。
やることも、勉強することもいっぱいありそうです。
さてどうなることか。