「土産」 松平
3月は旅行シーズンだ。
卒業旅行やらなんやらで行く人が多い。
るるぶやまっぷるもこの時期は一層気合いを入れた表情で本屋の棚に並んでいる。気がする。
旅行において何を重視するかは、その人の価値観がすみずみまで露呈する問いだと思う。
非日常的な空間の中で大事に抱えるものに、日常が詰まっている。
私はお土産が好きだ。
買ったり貰ったりもそうだが、お土産屋さんそのものが。そのものの、空気が。
当たり前だが店内にいるほぼすべての人間が、お土産を買いに来ている。
人気そうな個包装のお菓子をたくさんカゴに入れている人や、和菓子と洋菓子の間で揺らいでいる人、
名前入りのご当地タオルの棚で誰かの名前を探す人や、レトルトのカレーを吟味する人、
茶碗を新聞紙で包んで貰っている最中の人や、ご当地のキャラが描かれたくつ下に「可愛い」とこぼす人。
愛おしく感じてしまう。
名前も年齢も職業も血液型も、何もわからない人たちだが、自分と同じ旅行中の立場というだけで妙な親近感も湧いてくる。
お土産屋にいる全員が、
この場にいない人のことを考えて、
包装や渡しやすさや日持ちなどを考えて、
決まったそれをカゴに入れていく。
自分用のお土産を買う人も、未来の自分のことを考えて、要望に応えるようにカゴへ運ぶ。
この一連の流れに、どれだけ他人を思いやる粒子が飛んでいることか。
愛おしい。
お土産屋は思いやりに溢れている。
旅行から帰ってきた友人がくれた、リンゴジュースを飲みながらそう思った。
去年その友人にあげた大阪土産が、買い忘れたためすべて東京駅で買い直したものだとはバレていない。