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「カラオケ」 善方基晴


 高校生の時、文化祭の後夜祭でステージに立って派手に歌っている同級生を体育館の一番後ろから見ていた。

 
 もしも自分が歌が上手い人間だったら、あそこに立って同世代に刺さる良い感じの歌を歌って全員にかっこいいと思われていたのか。

理想としては、普段の学校生活では、特に歌の上手い様子など見せていなかったのに、ひとたびステージの上に立って一人で一節歌ってみると、全校生徒から歓声が上がり、徐々に手拍子が体育館全体に広がっていく。

間奏でも温かい拍手に包まれて、そのステージを終えると、生徒にはもちろんのこと先生からも一目置かれた存在となるのだろう。

 
 
 しかし、現実の自分は歌が上手いとはとても言えず、人前で歌うことさえ恥ずかしい。
 
人前で歌うことが恥ずかしいから、普段の会話でも歌やカラオケの話を自分からすることはない。
 
 バイト先などで周りの人とそういう話になってしまったら、自分はできるだけ下手に出ながら周囲に話を合わせる。
 
「カラオケの十八番とかある?」
 
「いやあ、ぼく歌下手なので、カラオケ全然行かないんですよ」
 
「へー、そうなんだ、なんか普段音楽とかは聞かないの?」
 
「あ、音楽はよく聴きますね」
 
「え、どういうの聞くの?」
 
「いや、これ僕が言うと、一丁前にかっこつけるなよと言われちゃうと思うんですけど、」
 
「うん」
 
「andymoriとかよく聴いてます」
 
「え、善方くんが、andymori?(笑)いや、それは一丁前すぎない?(笑)」
 
「え、あ、え?」
 
「いや、andymoriはかっこつけすぎでしょー(笑)」
 
「いや、なんか勝手に、そんなことないよ、とか、andymoriかっこいいよね、と言われると思っていました。なんか、僕の心の、やわらかいところが、傷つきましたよ、、、はは、はははは(笑)」

 
 もし、このバイト先の子とカラオケに行って、僕がandymoriを下手くそに歌っていたらどんな風に思われていたのだろうかと強烈な不安に襲われる。

もちろん、人とカラオケなんて行かないけれど、仮にそういう流れに陥ってしまった時のために、僕が歌ってもかっこつけすぎていない、ちょうどいい歌を誰か教えてほしい。

 
相も変わらずandymoriは聴き続けてやる。


善方基晴

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