「祭り」 松平
今年もこの季節がやってきた。
最寄駅構内のあちらこちらに、地元の夏祭りのポスターが貼られているのを見て実感する。
花火もあがらない、屋台が並ぶだけの小さな祭り。
ただ、子供の頃の私にとってはその祭りが夏の象徴だった。
小学一年生の私は母に浴衣を着せてもらい、母と二人で行った。
小学三年生くらいから友達と行くようになり、「夏祭りは保護者同伴で行きましょう」という学校の教えを破った。初めて先生の言うことを破った。
小学六年生のときは、当日の昼間に自分のスマホを買ってもらった。
一日の間に初スマホと夏祭りというビッグイベントが二つも並ぶことは後にも先にもないだろう。
一生のうちに感じられるわくわくの八割くらいを、この日に使ってしまったような気がする。
中学生からは、行かなくなってしまった。
反抗期というかなんというか、夏を楽しむことをダサいと思っていたのだ。
十代の中でも一番浅い尖り方である。
そのフェーズも流石に今は終わっていたため、この前小六ぶりくらいに地元の夏祭りに行った。
慣れ親しんだ地元の道路に、その日だけ一面に屋台が並ぶ。
久々に見るその光景に、なんだかタイムスリップしたような感覚になった。
妙に月日の流れを感じてしまう。
景色があのころのままで、小学生に戻ったような気分になった。
今日だけは小学生に戻って楽しもうと、祭りらしいものを買って食べた。
本当は500円のベビーカステラが食べたかったのだが、手元のお札を崩したくなかったので300円のチョコバナナを買った。
かなり考え方が大人になっている。
昔は200円の我慢など知らなかったのに。
食べながら適当に歩いてると、近くを歩きタバコしている小学校の同級生が通った。
なかなか小学生でいさせてくれない。
来年は、ベビーカステラを食べよう。
チョコバナナは、チョコバナナという名前のハードルを超えてこないから。