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「アルバイト」 善方基晴


 アルバイトの面接の終盤でゴム手袋によるアレルギーがないか確認されたのに、落とされたことがある。

 
 数年前に青果店でアルバイトをしようと思い、面接に臨んだ。
 
面接当日、全く話したことのない人とコミュニケーションを取ることが確定している朝は憂鬱だったが、丁寧に書いた履歴書と、あくまでもバイトの面接であるという楽観的な気持ちを持ってその店に向かった。
 
明らかに顔つきがアルバイトではない女性にレジの後ろにある小さなスペースに通され、そこで面接が始まる。
 
履歴書を渡してあいさつをすると、眼鏡の奥から眼光鋭く見つめられ、その社員は僕にいくつか質問をした。

住んでいる場所やレジの経験があるかなど、またこの店ではどういう人が働いているかについても教えてくれた。
 
面接の冒頭で「1分間で自己紹介をしてください」と言われたときは焦ったけれど、それ以降は順調に受け答えできた。
 
そして最後に、
 
「うちの店は作業するときにゴム手袋をつけてもらうことが多いんですけど、アレルギーとか大丈夫ですか?」
 
「あ、はい」
 
ゴム手袋のアレルギーがないか確認されるということは、実際に働くとなった時に起こりうる可能性の話であるから、僕はその実践的な質問がされたのであればアルバイトに受かると思った。

 
 
 後日家に封筒が届き、綺麗に印刷された文字で「今回は採用を見送らせていただきます」と書いてあった。
 
落ちた。

 ゴム手袋のアレルギーがあるかどうか確認されたのに落ちた。

 
面接をしたうえで、落とそうとなったのならば、ゴム手袋のアレルギーをあるかどうかなんて確認しなくていいのに。
 
受かっただろうと思わせるメリットなんてないはずなのに。
 
なぜあの質問をされたのか。今も不思議でならない。
 
 
 そしてその後、近くの別の飲食店のバイトに受かった。ゴム手袋の話は一切出なかったが、当然のように作業のときはゴム手袋をするように言われた。
 
しばらくしてゴム手袋を外してみたら、手がかゆくなった。ゴム手袋をつけて作業をすることは自分には向いていないようだった。
 
じゃあ何ならできるのだろう。

 
 あの社員は青果店を営む傍ら、実は皮膚科界の権威でもあり、人の手を一目見ただけでゴム手袋のアレルギーがあるかどうか見分けていたのだ。

そのため僕は、本当はゴム手袋が肌に合わないことを見破られ、バイトに落とされたのだろう。

 
きっとそうだ。そうであったと思うことにしよう。


善方基晴

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