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「サプライズ」 モサク
サプライズを明かす際に人間が一番出してきた音
「じゃじゃーん!」
これを言える人と言えない人がいると思う。僕は言えなかった。
じゃじゃーんという音を口にするのは容易だ。ただその音を素直に出せなかった。
僕も何度かサプライズをしてもらったことがある。
大学の昼休み終わりにゼミの教室を開けるとクラッカーの弾ける音とたくさんの拍手に迎えられた。
「お誕生日おめでとう!」とひとしきり言ってもらったあとに奥から手を後ろに組んだ男が満面の笑みで僕の前に立った。
笑顔のしわが増えるのと同期しているかのように後ろに組んでた手が僕の目の前にまで来る。
腕を前に伸ばしきった瞬間に彼は思いきり腹式呼吸でこう叫んだ
「じゃじゃーん!」
好きなポケモンのぬいぐるみをもらった。うれしかったのだが、その前にこの空間を切り裂くぐらい大きい声でなんの恥じらいもなく「じゃじゃーん!」と言った友達を誇らしいと思った。
「じゃじゃーん!」
「じゃじゃーん!」
「じゃじゃーん!」
家に帰って、お風呂場で何度も言ってみた。何度言っても素直に言えなかった。
「じゃじゃーん!」と素直に言えるようになった僕は深夜の松屋にいた。
ここの松屋は食べ終わった食器をセルフで返すシステムだ。
返却棚に僕が食器を置く音が響くと店員さんは「ありがとうございました!」と言った
その音が消えかけそうになる瞬間に僕の素直な「ごちそうさまでした!」が深夜の松屋に響いた。
ほんの少し人にやさしくなれた
1000タコ モサク