「ポケット」 松平
ちょうどいい鞄がない。
外出するときに何を持っていくか。
私は、よく忘れ物をするので、
家を出る直前に何を持ったか持ってないかと焦らないように、遊びに行く際は必要最低限のものしか持ち歩かないことにした。
スマホ、定期、財布、ハンカチ。
これさえ持っていれば困らない。
その4つをポケットに詰め込み、側からみれば手ぶらの状態でいつも家を出る。
向かう場所がかなり遠かったとしても同様に鞄を持たずに出かけている。
周りからは「あんまり女でそれする人いないよ」とよく言われる。
時代にそぐわないコメントだ、と思いつつ、私もそれは少し同意してしまう。
好きで鞄を持たずに、ポケットに物を詰め込んでいるわけではないのだ。
家を出る前、スマホ・定期・財布・ハンカチのいつメンたちを持ち、これらを入れるための鞄を探す。
私の鞄手札は、2枚しかない。
お気に入りのサンタクルーズの水色のリュックと、所沢の観光大使の直筆サイン入りのトートバッグ。
リュックの方は1番オーソドックスな形と大きさのリュックで、あの4つを入れるだけだとかなりスペースが有り余る。
スマホを運んでるのか空間を運んでるのかわからなくなるほどの空洞っぷりだ。
トートバッグも、トートバッグの中だったらかなり大きいもので、スペースが余ってしまう。
そして直筆サイン入りなので、「誰のサイン?」と毎回聞かれるのが気まずい。
私には「所沢の観光大使のサイン」と答えることしかできないのに。
なのでいつも仕方なくポケットに詰め込む。
不可抗力だ。
決して、鞄を持ち歩かない快適さを覚えてしまったわけではない。
ちょうどいいサイズの鞄を買わずに、
最近はポケットが丈夫そうなカーゴパンツばかり買っているが、快適さを覚えてしまったわけでは決してないのだ。