「チョコレート」 松平
最近YouTubeでasmrの動画をよく見る。
asmrとは、
と初めに説明しようとしたが、詳しく何を指しているのか、何の頭文字をとっているのかもわからなかった。
ここで調べるほど気になってもいない。
なんとなく咀嚼音がしそうなお菓子を食べている動画を私はasmrとしている。
意図的に見ている、というより、一度何気に再生してしまったらYouTubeが自信満々におすすめにasmr動画を表示してくるので、惰性でダラダラと再生してしまう。
カラフルなグミや、マシュマロ、砂糖菓子などを咀嚼音を響かせながら大量に食べる動画は、視覚的にも聴覚的にも楽しくて飽きない。
そういう界隈の動画をたくさん再生していると、それぞれが食べているお菓子のラインナップが似ていることに気づいた。
みんなこのグミ食べてるな、とか
このマシュマロ食べている人多いな、とか。
どうやらそれらはバズっているお菓子らしい。
コメント欄を見てみると、どこも売り切れていることが多く、入手困難であることが書いてあった。
そうなるとこのYouTuberの方たちは、どこで何袋も仕入れているのだろうか。と解消されない疑問を浮かべつつ、
気づいたら私はそのバズっているお菓子がどこになら売っているのかを調べてしまっている。
ドンキホーテ、と書いてあった。
動画を見ている時は、甘そうだなあくらいにしか感じていなかったのに、なかなか手に入らないと知ったら急に自分も食べたくなってしまった。
これは何という感情なのだろうか。
少なくとも青いペンギンにはない感情だろう。
基本インドアで、自分の用事のためだけに出かけることなんてない自分が、次の日にはドンキホーテを4軒くらい巡っていた。
どこのドンキホーテにも置いておらず、諦めかけていたとき、ライブ前に寄った都会のドンキホーテでついに目当てのお菓子を見つけた。
入手困難だからだろうか、お菓子の値段の相場3倍くらいの金額だったが、
その金額とお菓子と天秤にかけたときに、迷わずお菓子をとってしまうくらい脳がasmr動画に支配されていた。普段だったらもう少し堅い財布の紐を簡単に解く。
やっと手に入ったそのお菓子に、
より気分を高揚させるためにきっかけとなったasmr動画を改めて見た。
私は今からこのお菓子を食べるんだ、と自分に言い聞かせるように見る。
一口食べた時に「まあそうだよな」と思った。
決して口に合わなかったわけではないが、美味しいと同時に「まあそうだよな」が浮かんでくる。
まあ、この味だよな。
期待したものを現実が超えてくることはなかなかない。
休日に焼くホットケーキも、夏祭りのチョコバナナも、手に入れるまでの行為が1番楽しい。
味はそれを超えてこない。が、別にいい。
ドンキホーテのお菓子コーナーを、目当てのお菓子のパッケージを思い浮かべながら歩いた時間、目当てのお菓子を見つけた瞬間は確実に楽しかったし、そのお菓子はどんな味がするんだろうとasmr動画をスワイプしながら想像した味は確実に甘かった。
買ったことを後悔はしなかった。
私はやっと手に入れたそのお菓子を、楽屋にいる同期に配りながら、「期待したものを現実が超えてくることはなかなかない。」を反芻する。
でもまあアイドルの握手会は、絶対に膨らませた期待を超えてくるよなあと思った瞬間に、お菓子を8割方配り終えた。