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認知症の詩(うた)④ ホントのこと
私には、何がホントで、何がホントでないのか、分からない。
私のホントは、ふつうの人のホントではないようだ。
でも、私にはホントに思える。
それが「ホントでない」と言われると、困ってしまう。
どうしたら、何を信じたら、何がホントか、分からなくなる。
何がホントか、分からない。
どうしてみんな、これがホントだって、思えるんだろう。
何がウソだって言えるんだろう。
ウソがホントだったら、ホントのことになるのかしら。
私には、分からない。
分からないままで、生きていては、いけないだろうか。
人に、迷惑をかけて、生きていては、いけないだろうか。
何が私を生かしているのか、分からない。
何が私を死なせるのかも分からない。
運命、としか言いようがない。
みんな、同じではないですか。
なんであの人は、あんなネクタイを締めているのか。
なんであの人は、あんな首飾りをして、耳や鼻に穴をあけて、なんであんな服を着てるのか。
本人にも、ほんとうのところは、分からないんじゃないですか。
わけのわからないものに生を受け、
わけのわからないものに生から離され、わけのわからないこの世に生き──
みんな、同じではないですか。