「フォロワーの影」6
第六章: 真実の声
真琴が本当の自分をさらけ出す投稿を続けるようになってから、彼のSNSアカウントは少しずつ変わっていった。フォロワー数は一時的に減少したが、それはもはや真琴にとって大きな問題ではなかった。それよりも、残ったフォロワーたちとの交流が以前よりも深くなり、彼の発信に対する共感が広がっていることに気づいたのだ。
ある日の夜、真琴はリビングのソファでくつろいでいた。カーテンの隙間から見える街の灯りが静かに輝いている。その光景をぼんやりと眺めながら、彼は思いを巡らせていた。
「結局、僕は自分を見つけるためにSNSをやっているんだ。」
その考えが、彼の心の中に自然と浮かんできた。これまでの彼は他人に認められるために必死だったが、今は自分の心に忠実でありたいと思うようになっていた。それが本当に大切なことだと感じていた。
ある日、真琴のSNSに特別なメッセージが届いた。それは、彼が以前に悩んでいた時に励ましてくれた謎のフォロワーからのものだった。
「君が変わっていく姿を見て、とても感動しています。僕も、自分自身の仮面を外して生きていく勇気をもらいました。ありがとう。」
そのメッセージを読んだ瞬間、真琴は胸の奥がじんと熱くなった。誰かが自分の行動によって勇気を得てくれたという事実が、彼にとって何よりも大きな励ましだった。
「僕がやっていることは、無駄じゃなかったんだ。」
真琴はそう確信した。
その後、彼はSNSの使い方をさらに変えていくことに決めた。以前のように「映える」投稿を狙うのではなく、日常の何気ない瞬間や、心の中で感じたことを率直に綴ることに集中した。例えば、カフェで飲んだ一杯のコーヒーが心を落ち着かせてくれたことや、街を歩きながらふと感じた秋の風の心地よさなど、細かなことにも目を向けるようになった。
その変化に応じて、彼のフォロワーたちからの反応も変わっていった。以前のように「いいね」やコメントが大量に来ることは減ったが、来るメッセージはどれも深く、意味のあるものばかりだった。
「君の投稿を見て、いつも癒されています。」
「何でもない日常がこんなに美しいものだと気づかされました。」
その言葉たちは、真琴にとって何よりも価値のあるものだった。フォロワーとのつながりが、単なる「数字」や「評価」ではなく、本当の意味でのコミュニケーションに変わっていく感覚が、彼にとって新しい発見だった。
そんな中、彼に再び一つの疑問が浮かび上がってきた。
「このSNSの世界で、自分は本当に伝えたいことを伝えているのだろうか?」
SNSの良さは、人々とのつながりを広げ、意見を交換する場を提供してくれることだった。しかし、その反面、真琴はその速さや瞬間的な反応に流されてしまうことも多かった。彼が目指しているのは、もっと深く、本当の自分を知ってもらうこと。そう考えると、SNSだけでは限界があるのではないか、と感じ始めていた。
ある夜、彼は佐藤に電話をかけ、悩みを打ち明けた。
「俺さ、SNSを通じて自分を表現してきたけど、なんか物足りないんだよね。もっと自分のことを深く伝えたいって思ってるんだけど、SNSじゃ限界がある気がして。」
佐藤は少し考えてから答えた。
「それならさ、他の方法を試してみたらどうだ?例えば、ブログとかエッセイとか、もっと文章でじっくりと伝える形にするとか。」
その言葉に、真琴はハッとした。SNSは瞬時に反応が返ってくる利点がある一方で、じっくりと考えを伝えるには不向きな面もあった。佐藤の提案は、まさに真琴が感じていたジレンマを解決する糸口だった。
翌日、真琴は新たな決意を固めた。彼はSNSでの投稿を続けつつ、並行して自分の考えや感じたことをもっと深く掘り下げて書く場を作ろうと思った。それは、ブログやエッセイとして発信する形になるかもしれないし、または新たなプロジェクトとして具体化するかもしれない。
「僕は僕自身を、もっと深く知ってもらいたい。」
その思いが、真琴の心の中で確固たるものとなり、彼を新たなステージへと導いていた。
こうして、真琴のSNS活動は次のステップへと進んでいった。単なるフォロワー数や「いいね」の数を気にする時代は終わり、彼自身の内面的な成長や、フォロワーとの深いつながりを求める新たな挑戦が始まったのだ。
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