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消えた街の秘密2


第三章:「過去の記憶」

年老いた男の後をついていくと、健一は薄暗い廊下を歩きながら、心の中で沸き上がる疑問を抑えきれなかった。この異世界は何なのか? 自分がここにいる理由は? そして、なぜ自分の絵があの壁に掛けられていたのか?

「ここは一体……どこなんですか?」健一は意を決して問いかけた。

老人は足を止め、振り返る。その目には深い知識と哀しみが宿っているように見えた。

「ここは、かつて君が住んでいた場所だよ、佐藤健一。」

その言葉を聞いた瞬間、健一の頭の中に一瞬、幼い頃の風景がよぎった。だが、すぐにそれは霧のように消え去り、何も思い出せなかった。

「住んでいた? いや、俺はそんな場所に来た覚えは……」

「いや、あるんだよ。君がまだ幼かった頃、この世界とあちらの世界を行き来する能力を持っていたことを、今は忘れているだけだ。だが、その能力は封じられた。理由は――ある出来事によってね。」

老人の言葉に混乱しつつも、健一は無意識にその話に耳を傾けていた。自分には忘れてしまった過去があるのかもしれない。その過去が、今の自分に何を意味するのかを知る必要があると感じ始めていた。

老人は再び歩き出し、健一を導く。廊下の先には大きな扉があり、そこからはかすかに光が漏れていた。

「ここに全ての答えがある。君の過去、そしてこの世界の秘密だ。」

健一は一瞬ためらったが、深呼吸をしてその扉を押し開けた。すると、目の前に広がっていたのは壮大な書庫だった。無数の本が天井まで積み上げられ、その中央には一冊の大きな古書が鎮座していた。

「これが君の物語だ。」

老人はそう言って、古書を手に取り、ゆっくりとページを開いた。そこには、まるで自分の人生が記録されたかのように、健一の幼少期から現在に至るまでの出来事が書かれていた。しかし、あるページから突然、文字が消えて白紙になっていた。

「ここだ。この部分が、君の記憶から消されたものだ。」

健一は思わずそのページを見つめた。白紙のページを前に、心の奥深くから何かが沸き上がってくるのを感じた。過去の出来事、忘れてしまった記憶、そして……その全てが、ここにあるという確信。

「俺は……何を忘れているんだ?」

「君は、かつてこの世界を救う役割を持っていたんだ。しかし、ある事故が起き、その力は封じられた。君の記憶と共にね。だが今、その封印が解かれようとしている。この街が消えたのは、その力が再び動き出した証だ。」

健一はその言葉に衝撃を受けた。自分がただの平凡なサラリーマンだと思っていたのに、こんな重要な役割があったとは信じがたかった。しかし、次第に頭の中で記憶の断片が形を取り始めた。

幼い頃、確かに何かがあった――。異世界への扉を見つけ、そこを行き来していた記憶。そして、その力を使って、誰かを救おうとしていた記憶。

「俺は……本当にここで何をしていたんだ?」

老人はゆっくりとページを閉じ、深い溜息をついた。

「君はこの世界と現実世界のバランスを保つ役目を担っていた。だが、その力を悪用しようとした者が現れ、君の大切な人たちが犠牲になったんだ。それを君自身が封印し、全てを忘れることを選んだ。だが、運命は再び君をここへ導いた。」

健一はその言葉を聞き、胸の中に深い痛みを感じた。過去の記憶が徐々に蘇る中、彼はかつての自分の使命と、その使命に絡む悲劇を思い出していた。

「俺は……もう一度、その力を取り戻さなければならないのか?」

「そうだ。そして、今度は自らの運命に立ち向かう時が来た。消えた街を取り戻すためには、君がこの世界と再び繋がり、その力を完全に解放しなければならない。」

健一は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。過去を受け入れ、再びその使命を果たすために、異世界と現実のバランスを取り戻すことが自分の運命であると理解し始めていた。

「分かった。俺がやるべきことはもう決まった。消えた街を取り戻し、そして……過去に決着をつける。」

老人は微かに微笑み、健一の肩に手を置いた。

「さあ、君の次の旅が始まる。消えた街の秘密、そして君自身の物語の結末を知るために。」

健一は頷き、再び歩みを進めた。この異世界と向き合い、過去の自分を取り戻すために。そして、消えた街を取り戻す使命が、彼の新たな冒険の始まりだった――。

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