見出し画像

消えた街の秘密3

第四章:「目覚めた力」

健一が老人に導かれ、過去と向き合う決意を固めたその瞬間、彼の中で何かが変わり始めた。頭の中で曖昧だった記憶の断片が次第に結びつき、過去の自分を取り戻しつつある感覚があった。

「この力は……俺のものだったのか?」

健一は、体の奥底から湧き上がるエネルギーを感じ取っていた。それはかつての自分にとって自然な感覚だったが、今となってはあまりにも異質に思えた。それでも、彼はその力を恐れず、受け入れる覚悟を決めていた。

老人は頷きながら静かに言った。「そうだ。それが、君の本来の力だ。だがまだ完全ではない。その力を完全に取り戻すには、試練を越えなければならない。」

健一は眉をひそめた。「試練? どんな?」

「君が封印した力を解放するために、この世界の中心にある『無の城』へ向かう必要がある。そこで待ち受けるのは、かつて君が封印しようとした強大な存在だ。」

「封印しようとした……?」

健一の心にかすかに残る恐ろしい記憶。何か巨大な、制御しきれない力に挑み、失敗した瞬間――それが彼の脳裏にちらついていた。

「そうだ。その存在こそが、君の過去の悲劇の原因となった存在だ。彼を倒すことで、君は完全な力を取り戻し、消えた街を再び現実に取り戻すことができる。」

老人の説明に、健一は一瞬立ち尽くしたが、すぐに顔を引き締めた。もう迷うことはない。過去の自分と向き合い、未来を変えるために進むしかない。

「わかった。その『無の城』へ案内してくれ。」

老人は再び微笑み、ゆっくりと歩き出した。「私が君を導くのはここまでだ。その城への道は、君自身で切り開かなければならない。」

健一は驚いたように老人を見た。「一緒に来ないのか?」

「この先は君一人で進まなければならない。君の力を完全に覚醒させるためには、君自身の意思と決意が試されるのだ。」

そう言って、老人は手を振り、書庫の中央にある大きな鏡を指し示した。「その鏡を通れば、君は無の城への道へと繋がるだろう。だが、決して気を抜いてはならない。君の過去が、そこに待ち受けているのだから。」

健一は一瞬ためらったが、深呼吸をして心を落ち着け、鏡の前に立った。鏡に映った自分の姿は、これまでと変わらないはずだったが、どこか違うように見えた。過去と現在、そして未来が交錯するような不思議な感覚が彼を包んだ。

「行くしかない……」

そう呟いて、健一は鏡に手を伸ばした。すると、鏡の表面が波打ち、彼を異空間へと吸い込むように引き込んだ。

第五章: 「無の城」

気がつくと、健一は荒涼とした風景の中に立っていた。見渡す限り、何もない世界が広がっている。空は灰色に曇り、風は冷たく吹きすさんでいた。そして、その遥か遠くに、黒い影のようにそびえ立つ「無の城」が見えた。

「ここが……」

健一はその方向へと一歩を踏み出した。何もない大地を進むたびに、不安と緊張が増していく。まるでこの世界自体が彼を拒んでいるような、そんな感覚が彼を包んでいた。

それでも健一は進む。過去の自分と向き合う覚悟を決めたのだから、立ち止まるわけにはいかなかった。

やがて、無の城に到達した健一は、巨大な黒い門の前に立った。その門はまるで彼が来るのを待っていたかのように、ひとりでにゆっくりと開き始めた。中からは冷たい風が吹き出し、彼を誘うように呼び込んでいる。

「ここで全てを終わらせるんだ……」

そう呟いて、健一は城の中へと足を踏み入れた。城内は薄暗く、冷たい空気が肌にまとわりつく。奥へと進むたびに、かつての自分がこの場所にいた記憶が蘇ってきた。

――そして、ついにその部屋にたどり着いた。

大広間の中央に浮かぶ、巨大な黒い球体。そこには、かつて封印されたはずの力が渦巻いていた。その中心に、健一が最も恐れていた存在がいた。

「お前が……」

その存在は、巨大な影のような姿をしており、無数の目が彼を見つめていた。過去に対峙した時と同じ、いや、さらに強大な力を感じた。

「来たか、健一。お前は再び私と戦うために戻ってきたのだな。」

影は低い声で語りかける。健一は全身が震えるのを感じたが、今度こそ逃げるわけにはいかなかった。

「お前を封じるために、俺はここに来た。そして、今度は二度と逃げない!」

影は嘲笑うように声を上げた。「お前がかつて私に敗れたことを忘れたのか? 同じことを繰り返すだけだ。」

健一はその言葉に一瞬ためらったが、すぐに頭を振って否定した。「違う、俺はもう逃げない。過去の自分に決着をつけるために、ここでお前を倒す!」

そう言って、健一は両手を広げ、再び自らの中に眠る力を解放した。青白い光が彼の体から放たれ、その光は影の存在を包み込んだ。

「今度こそ……終わらせてやる!」

健一は自らの力を解き放ち、影の存在に立ち向かった。その戦いは、彼の過去と未来、そして世界そのものの運命を決定づけるものだった――。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?