心地よいさみしさ

大人になった今でもよく思い出す光景がある。
夕方誰もいない校庭で
ジャングルジムの一番高いところに立って
校庭を見下ろす。
夕日色の運動場に
自分の影だけが薄く伸びている。
秋の冷たい風が
ほてった頬をかすめていく。
日は落ちる。
放課後も終わる。
そこには自分以外誰もいない。
この運動場には今
私しかいない。
私だけの時間。

端から端まで清々しくて自由で
なにも気にしなくてよくて
ムズムズするくらい気持ちいい。
叫んでしまいたくなるくらい嬉しい。
最高の気分。
しばらく、余韻に浸る。

脚が冷えてきて
高揚した気持ちが落ち着いてくると
ジャングルジムから降りる。
すると、降りはじめたとたんに
泣きそうになった。
もっとこの瞬間が続けばいいのに。
楽しいとも気持ちいいとも違う心地よさが終わることが残念すぎた。

この感覚を私はひどく気に入った。
さみしいのに、ひどく自由だった。

雨の日もいい。
昼休み。みんな教室や廊下で遊んでる。
私は1人で傘をさして中庭に出る。
誰も来ない校舎の裏で紫陽花を見る。
しゃがんで、カタツムリの動きを追う。
肩越しに雨粒が傘にあたる。
湿った土の匂いを嗅ぐ。
傘の中は私と紫陽花たちだけ。
ほんのりと体温が傘の中にこもる。
冷たくてあったかい。
私だけの空間。
これもひどく気に入った。

それが周りから見ると「ひとりぼっち」だと言われることだと知った。
恥ずかしかった。
1人でいることは、誰にも相手にされない惨めなことだと思い込んだ。
1人でいないよう頑張った。
けどしんどいだけだった。

みんなには、必要なかったのかな。
誰かと共有する必要もなく、わかってもらう必要もなく、ただ、あるがままに過ごせる時間。

さみしいけど、心地よい。
そういう時間が好き。

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