外務大臣会見記録 2023年11月14日(火)
22時22分 於:サンフランシスコ
冒頭発言
【上川外務大臣】
冒頭、私から、今般のサンフランシスコ出張のこれまでの日程につきまして、簡潔にご紹介をさせていただきます。
まず、昨日より本日にかけましてIPEF閣僚級会合に出席をいたしました。
日米を含む14か国が参加をし、貿易・クリーン経済及び公正な経済の3つの分野に関して議論が行われ、 大きな進展がありました。
また、本年5月に実質妥結したIPEFサプライチェーン協定の署名式に参加をいたしました。
私からは、そのような進展を歓迎するとともに、引き続きIPEFの各分野における具体的な取組の早期実施に向けて、日本としても積極的に協力していきたい旨述べました。
また、西村経済産業大臣と共に、柱3のクリーン経済への移行を後押しするため、新たに立ち上げられるIPEF基金に日本政府として約1,000万ドルを拠出予定である旨プレッジいたしました。
さらに、今回の閣僚級会合におけるそれぞれの分野の進展について首脳会合で報告されることになりました。
インド太平洋地域における持続可能で包摂的な経済成長を実現するべく、地域の経済秩序の構築と繁栄の確保に向けて、引き続き、米国と共に、地域のパートナーと緊密に協力していく考えであります。
また、14日、APEC閣僚会議の第1セッションに参加をし、「持続可能な未来に向けた革新的環境の実現」や「全ての人にとって公平で包摂的な未来への支持」という議題について、議論を行いました。
私からは、人間の安全保障の重要性や、自然災害への対応において、女性の視点を適切に反映させるWPSの重要性を強調しました。
また、女性、中小零細企業を含む全ての人に対する公正な経済機会へのアクセスの確保の重要性を指摘しました。
第1セッションを通じ、持続可能で包摂的なAPECの実現に向けた協力を推進することが確認をされました。15日のセッション2におきましても、有意義な議論ができればと考えております。
そして先程、日米経済版「2+2」閣僚会合に出席をしました。
同会合は、昨年7月に続き第2回となる閣僚会合であり、ブリンケン米国務長官、レモンド米商務長官及び西村経済産業大臣との間で、まず一点目としては、「インド太平洋地域におけるルールに基づく経済秩序の強化」、二点目として、「経済的強靱性の強化及び重要・新興技術の育成と保護」に関する戦略的な議論を行うとともに、共同声明を発出いたしました。
今次会合の議論も踏まえまして、引き続き戦略的観点から経済分野での日米協力を拡大・深化させていく考えであります。
また、13日のチリとの外相会談におきましては、重要鉱物資源やクリーンエネルギー等の分野におきまして、二国間協力を深めていくことで一致をしたほか、CPTPPのハイスタンダードの維持における二国間の連携について確認をいたしました。
また、国際情勢についても意見交換を行い、価値や原則を共有する「戦略的パートナー」として、国際場裡でも連携をしていくことを確認いたしました。
14日に行われました日米韓外相会合では、日米韓協力の戦略的重要性を踏まえ、拉致問題を含む北朝鮮への対応、イスラエル・パレスチナ情勢等、現下の諸課題について率直な意見交換を行い、これまでの日米韓協力の取組を確認した上で、今後とも3か国の連携を重層的かつ安定的に進めていくことで一致をいたしました。
イスラエル・パレスチナ情勢は予断を許さず、とりわけガザ地区の人道状況が日に日に悪化していることを強く懸念しています。
本日、今般の事態への対応において重要な役割を果たしているエジプト及びヨルダンの外相とそれぞれ電話会談を行い、先般東京で開催したG7外相会合での議論を紹介しつつ、最新の情勢について議論をいたしました。
私からは、日本が一貫して事態の早期沈静化の重要性を強調しており、実際の軍事行動において民間人の被害を防ぐべく、人道目的の戦闘休止を含め実施可能なあらゆる措置を講じる必要があることを指摘し、人道状況の改善や事態の沈静化に向けて、引き続き連携していくことで一致をいたしました。
また、13日には、「WPS+イノベーション」シンポジウムにおきまして、基調講演を行いました。
講演では、平和と安定が揺らいでいる現代におきましては、経済と平和と安定を不可分のテーマとして議論すべきではないかとの問題提起を行い、パネリストの方々にWPSとイノベーションの相互作用につきまして議論をしていただきました。
13日の夕刻においては、サンフランシスコ日本町を訪ね、日系人コミュニティのリーダーの方々と懇談を行いました。
米国の日系人の方々との関係は、揺るぎない日米同盟を支える重層的な人的交流の大切な一部であります。
懇談では、私から日米関係強化への日頃の御貢献に対し敬意を表するとともに、引き続きの協力と支援をお願いいたしました。
私からは以上です。
質疑応答
【記者】
IPEFと「2+2」についてお伺いします。
今冒頭もご紹介いただきましたけれども、特に日本としてどのような点に力を入れて主張したのか、もう少しあればというのが一点です。
あと、IPEFの柱4つの内ですね、貿易に関しては今回妥結に至らなかったと言うことですけれども、その点の受け止めをお願いします。
3点目に、「2+2」ではですね、中国の水産物の禁輸措置に対して、これについて大臣どのような発言があったのかとか、そこを教えていただければと思います。
【上川外務大臣】
まず、第一点目はIPEFで何を主張したのかというご質問でございました。
IPEFの閣僚級会合で、私からは、まず貿易については、包摂性章が独立した章として扱われた初めての貿易協定であることに触れ、女性やマイノリティ等を始めとする社会の全ての層の利益への配慮の重要性を指摘いたしました。
腐敗防止に取り組む公正な経済につきましては、地域における投資促進に資するとの観点から、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)と、JICAによる汚職対策のための研修が現在東京で開催されているということを紹介いたしました。
また、今回の閣僚級会合では大きな進展があったところでありますが、これにつきましては、首脳会合で報告されることになりました。
日本はこれらの進展を歓迎しておりまして、引き続きIPEFの各分野における具体的取組の早期実施に向けて、積極的に協力していく考えであります。
また、インド太平洋地域における持続可能で包摂的な経済成長を実現するべく、地域の経済秩序の構築と、また、繁栄の確保に向けまして、引き続き、米国と共に、地域のパートナーと緊密に協力をして参る所存でございます。
IPEFにおきましては、貿易協定、これにつきましては、当初から加速したペースで交渉を進めるということを目指してきたところであります。
昨年12月の実際の協定開始から1年弱で多くの省の議論が実質的に進展させることが出来たと、というふうに捉えているところであります。
【記者】
「2+2」で中国の水産物の輸入の点で何か発言があったかどうかを教えていただければと思います。
【上川外務大臣】
経済版「2+2」におきましては、戦略的観点から、経済分野での日米協力の拡大進化の方途につきまして、様々な議論を行いました。
中でも、インド太平洋地域におけるルールに基づく経済秩序の強化に関しまして、日米がインド太平洋地域の経済秩序において引き続き責任ある地位を占めることの重要性を確認した上で、その具体的な取組として、IPEFについて進展があったことを歓迎するとの立場を伝えたところであります。
また、TPPについての我が国の考えと取組を伝え、インド太平洋地域の経済秩序につきましてやり取りを行いました。
その上で、インド太平洋地域の自由で公正な経済秩序の構築に向けて、非市場的政策・慣行や経済的威圧への対処に引き続き取り組むことで一致をいたしました。
また、経済的強靱性の強化及び重要・新興技術の育成と保護に関しましては、半導体、AI、量子、クリーンエネルギー、5G等の技術分野の育成及び保護等に係る協力の加速、重要鉱物の安定供給確保に向けた連携、また、エネルギー安全保障及び食料安全保障の確保に向けた協力等に係る具体的な連携を進めていく方針を確認したところであります。
なお、ALPS処理水に関する日本の取組について米側から改めて支持が表明され、輸入規制措置等について科学的根拠に基づき冷静な対応が必要である点で一致をいたしました。
日本産品に対する輸入規制は直ちに撤廃されるべきであることは、会合後に発出された共同声明でも確認されたところであります。
【記者】
今の質問と少し関連するのですけれども、日中関係について、総理がAPECの出席に合わせて、日中首脳会談の調整を進めていると思います。
日中間は日本産水産物の輸入停止や邦人拘束など懸案も多いと思いますが、首脳同士で会談する意義について大臣はどのようにお考えかということと、大臣ご自身は、まだ王毅外相との会談を行っていないと思うのですけれども、今後どのように大臣ご自身日中関係を進めていきたいとお考えでしょうか。
【上川外務大臣】
日中両国間には、様々な可能性とともに、御指摘も含めまして数多くの課題や懸案がありますが、我が国といたしましては、主張すべきは主張し、中国に対し責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力すると、「建設的かつ安定的な関係」の構築を双方の努力で進めていくというのが我が国の一貫した方針であります。
APECも含めまして、今後の日中首脳及び外相会談につきましては、現時点で何ら決まっていない訳でありますが、今申し上げた方針の下で、私も王毅部長とも今後様々な機会を捉え率直な意見交換を行い、この「建設的かつ安定的な日中関係の構築」に向け議論を進めていきたいと考えております。
【記者】
IPEFとの絡みにもなりますが、日本はこれまでTPPへの米国復帰を求めてこられましたが、今回IPEFにおいては新たに2分野での合意が見通されております。
その中でも米国がTPP離脱後に創設されたIPEFでの合意が見込まれている中でも、米国へのTPP復帰を日本は訴えていかれる方針なのでしょうか。
重ねて、その場合どのように具体的な働きかけを行っていかれるかと言うことと、中国がTPPへの加盟申請を今行っている最中だと思います。
豪州が中国との貿易摩擦改善に動くなど中国に寄るような動きも見られる中で、日本としてはどのように対応していくお考えでしょうか。
【上川外務大臣】
このIPEFでありますが、インド太平洋地域における協力、安定、繁栄、開発、そして平和に貢献することを目指すものであります。
先ほど冒頭述べたとおりでありまして、米国によるIPEFの主導は、米国のインド太平洋地域への積極的なコミットメントこれを示すものであると認識をしており、我が国として、米国のこうした姿勢を歓迎をしております。
その上で、TPPでありますが、これは市場アクセス及びルールの両面で高いレベルの内容となっており、貿易、そして投資の促進といった経済的意義に加えまして、ルールに基づく自由で公正な経済秩序の構築や、それに基づく地域の安定と繁栄の確保に資するとの戦略的な意義を有しているものであります。
我が国といたしましては、IPEFの各分野における具体的な取組の早期実施に向けて積極的に協力していく考えであると同時に、このインド太平洋地域の国際秩序への米国の一層の関与を確保するという戦略的観点から、米国のTPP復帰が望ましいと考えているところであります。
様々なレベルで引き続き米国のTPP復帰を粘り強く求めていくとともに、IPEFも活用しつつ、この地域の望ましい経済秩序の構築に向けて日米で緊密に連携して取り組んでいく考えであります。
また、ご質問の中国のTPP加盟についてでありますが、中国は日本にとりまして最大の貿易相手国であります、中国に進出する日系企業も極めて多い現状があります。
中国での経済関係については、日本全体の国益に資するような形で対話と実務協力を適切な形で進めていく必要があります。
その上で、経済大国となった中国が、国際社会のルールに則り大国に相応しい責任をしっかり果たしていくことが重要と考えております。
日本としては、関係国とも連携をしつつ、引き続き様々な機会を捉えて、中国側にそのような行動を求めていく所存でございます。
【記者】
中東情勢について伺います。
報道によるとガザで100人以上の国連職員の方が亡くなっていまして、ガザ北部の病院では電力が切れて稼働停止になり、新生児が亡くなったとの報道もあります。
今日になり、イスラエル軍がガザ北部の最大級の病院に突入して、ハマスに対する作戦を実行中とのことですが、受け止めと、日本としてどう対応してしていくかという点についてお願いします。
【上川外務大臣】
ガザ地区及び周辺におきましては、既に多数の死傷者が発生している状況であります。
その多くが子どもや女性・高齢者を含む一般市民でありまして、このような人道状況の悪化を深刻に懸念をしているところであります。
また、これまで100名以上の現地の国連職員が犠牲となった旨国連が発表していると承知をしておりまして、心からお悔やみを申し上げる次第であります。
現地の人道状況の改善に尽力されているこれらの職員の生命、身体は守られなければなりません。
全ての当事者が、国際人道法を含む国際法を遵守しなければならない。
例えば、「人間の盾」といった、あえて無辜の民間人を無用に巻き込むような行為は、国際人道法の基本的な原則に反するものであり、正当化できない。
こうした行為は決して許されるものではない。
実際の軍事行動におきまして民間人の被害を防ぐべく、人道目的の戦闘休止を含め実施可能なあらゆる措置を講じていく必要があると考えております。
また、必要な支援が一人一人に適切に届けられるよう、人道支援活動が可能な環境の確保に向けた外交努力を続けて参ります。