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徒然日記|自転車を担いだ人

 大学に行く途中で、踏切を渡る必要がある。いつもはそれほど待つことなく開くごく普通の踏切である。しかし、今日は私が踏切についたときにはすでにたくさんの人が集まっていた。踏切が全然開いていないのだ。
 たぶん電車の遅延の関係だろう、ときどき“開かずの踏切”になるその踏切には一応歩道橋があり、真ん中には自転車を押していくための細いスロープすらある。しかし、かなり急な傾斜であることから、日頃は利用する人を見かけることはなかった。
 左を指し示す矢印が光る。かなりの時間がたって、ゆっくりと電車が現れ、私たちの前を通り過ぎて行った。これで開くか、と思われた踏切は無常にももう一度矢印を光らせる。それくらいの頃から歩道橋を渡る人が出てきた。自転車を押して、もしくは己の体だけを階段を使って宙へと連れていく。その中に、全身黒ずくめの男性がいた。ロードバイクというのだろうか、いかにも速く走りそうなフォルムの自転車をおもむろに肩にかつぎ、階段をぐいぐいと登り始めた。
 そのあまりにも力強い姿に思わず目を奪われてしまった。あとから考えればかつがんくてもいいではないか、とも思うが、肩に自転車を載せて階段を上っていくその姿は冬の北風にも開かない踏切にも負けない強さを感じさせた。あんな背中が目の前にあれば、どこまでも歩いて行けそうだ、と思わせる背中だった。

 しばらくして、ふたつほど電車を見送り、踏切は開いた。

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