31 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<4章:解決>
No.88 全軍集結せよ!(帝)
ー時は西暦2018年より数億年先の地球 忍歴2020年 帝の城ー
私は、寝静まった静かな城内を、裸足のまま全速力で走っている。私の荒い息遣いと、長い廊下をなりふり構わず走る音だけが無情に響く。廊下を曲がる際に勢い余って滑り、思わず床に手をついた。それでも転がるように私は全速力で走る。
「ついにやりやがった!」
「エクスロゲのやろう!」
私の叫びが辺りに響く。
一刻を争う事態だ。右手には刀を持っている。寝巻で着ていた浴衣の裾がはだけるが、かまわない。
私は走り続けた。
ついにあいつはやりやがった。誰か分かっている。エクスロゲだ。大義名分は、さしづめ私のお妃候補である沙織の成敗であろう。黒の意向は無視できないと言って仲間を広く焚き付けて集めたのであろう。
私は天守閣まで一飛びに駆け上がった。
見張の衛兵が遥か遠くを睨んでいた。その方向を見る。
城の天守閣から見た光景は想像を絶する光景だった。
「な、なんと!」
大型恐竜の大群が所狭しと城に向かって押し寄せてきている。まだ、都の外だが、まもなく都に到達するところだ。草原と山脈が見渡せるはずが、所狭しと敵の翼竜で空が埋め尽くされ、大地は大型恐竜で埋め尽くされていた。
「鐘!」
私は叫んだ。
「御意!」
敵の急襲を知らせる鐘が鳴り響いた。都中が飛び起きるだろう。城外の軍の大群も飛び起きるであろう。城の衛兵は既に幾重にも城壁の周囲を固めている。
「土居田陸軍長官を!」
「御意!」
「戦闘服!」
「御意!」
私の後を追ってきた衛兵が私の黒い戦闘服を素早く私に渡す。
私はその場で浴衣を脱ぎ捨て、下着一枚になり、そのまま戦闘服を身につけた。衛兵が靴も渡した。私はそれを履くと首から下げた笛を強く吹いた。
城お抱えの翼竜を呼び寄せたのだ。
ゴーグルを渡されてそれもつけた。耳に聞き耳の術強化のイヤホンをつける。
術だけで土居田陸軍長官、及び各都市から集められた軍の指揮官とやりとりするのは難しい。
戦闘服はスリムだが矢も手裏剣も跳ね返す服だ。特殊な素材でできている。
「都に入れるな!」
「敵はガグリアにあり!」
「全軍、都の北西ガグリア草原に集結せよ!」
私はそれだけ言うと一気に天守閣を飛び降りた。私のいる天守閣まで飛んできたプテラノドンに空中でサッとまたがった。
「ガグリア草原まで!」
城に仕える恐竜、軍に所属する恐竜は我々を裏切ったりはしない。私はそれをよく知っている。だから私はこれまで生き延びてこれたのだ。恐竜は無闇に忍びを敵とみなさい。エクスロゲの頭がおかしいのだ。忍歴2020年の私は黄金のサンダル、羽のマントを持つと言われる忍びの世代だ。ただの忍びではない。
こんなことをして何の益があるというのか。
やつに学がないだけなのか。
エクスロゲは私の部下でもないし、対等の立場にある。
帝国の支配者は忍びだが、恐竜も対等だ。やつは銀行投資家で大成功をおさめている。何がしたいのかさっぱりわからないが、奴がやらかしたことだけは既成事実だ。
この恐竜の大群を私に止められるのか?
颯介とナディアは間に合うのか。
私は頭をふって不安を振り払った。前方に見える恐竜の大群の暴走を見つめてひたすら飛んだ。山脈の上を翼竜が飛び、草原を大型恐竜が疾走している。先頭に見えるのはエクスロゲで間違いない。
私の後ろから、沙織が天守閣から飛び降りて、空中でなりきる術で一気にプテラノドンに変身して私の後を必死に追ってきているのに、私はまったく気づかなかった。
また、遥か都の中央から一匹のプテラノドンが飛び立ち、沙織に合流しようとしているのにも、私はまったく気づかなかった。
No.89 謀略を吹き飛ばせー最強術合戦直前(帝)
ー 時は西暦2018年より数億年先の地球 忍歴2020年 帝の城
「止まれ!」
私はガグリア草原の地上に飛び降りた。私の頭上を城から乗ってきたプテラノドンが旋回する。それを目標に続々と軍の大群が私の後ろに集結する。
軍の翼竜最大のハツェゴプテリクスたちも大群で押し寄せて私の頭上を旋回していた。オルニトミムスに乗った兵士も続々とやってきた。私に仕える軍の大軍が、ガグリア草原と都の間を埋め尽くす。軍に仕える恐竜たちは首に青いスカーフを皆つけていた。
私は『雷声道の術』を使って、全軍と言わず、エクスロゲが率いている恐竜たちにも全て伝わる術を使って話した。
エクスロゲは術を使えない。あいつは仕方なく拡声器を使っている。となると、あいつの後方にいる者にはほぼあいつの声は聞こえず、私の声だけ聞こえることになる。
「止まれ!」
私は腕を振り上げてもう一度叫んだ。
とてつもない声量で山脈にも都にもがグリア草原の隅々にまで私の声が届いた。
エクスロゲをはじめ、暴走した恐竜は翼竜含めてすべて止まった。
「ええい!」
「俺たちはこの地球の支配権をもらいたい。」
地団駄踏んだエクスロゲは叫んだ。
「黒の秘密結社より、我々に依頼が届いた。お前がお妃候補とした忍びを始末してくれという依頼だ。」
「お前はそれを無視した。黒の秘密結社の依頼に反いた。」
「黒は、我々の地球の歴史を過去から変える力がある。」
「我々は今すぐに、黒の依頼に従いたい。」
「我々の地球に危険を及ぼす行為をするお前を帝とは認められない!」
エクスロゲは叫んだ。
つられて、エクスロゲの真後ろにいた大型恐竜が前に出てこようとした。
その時だ。私は、私の背後に控えるオルニトミムスも前に出ようとしたのが分かって止めようとチラッと後をみた。このままここで合戦になるのは避けたい。
「待て!まだだ。」
私は術を使わずに小声で合図を送った。
背後を振り返って見た時、私の少し後ろの小高い丘に2匹のプテラノドンが降り立ったのが目に入った。
なんだ?
あっというまに二人の忍びの姿に変わった。一人は沙織だ。もう一人は五右衛門か?
素早く、五右衛門がさっと腕を伸ばすのを私は見た。
途端に空に閃光が走り、両陣の翼竜が飛び交うはるか上空に巨大な穴が出現した。
「うお!!!!」
「なんだあれは!」
ガグリア草原にどよめきが起こった。
こんな現象は見たこともない。なんの術だ。
その割れ目から漆黒の鳥の大群がやってきた。何十万羽といる。
「カラス?」
「カラスだ!」
「カラスじゃえ!」
エクスロゲもたじろいだ。私もたじろいだ。一体これはなんだ。
「みなさん、数億年先の地球の支配者はカラスだ!」
「次の地球の支配者はカラスなんだ!」
橘五右衛門が『雷声道の術』の術を使って、叫んだ。
「今、数億年先の地球からカラスはワープしてきた。」
「エクスロゲ!聞け!」
「お前がやっていることは自滅の道だ!」
はい?
そう思ったのは、私だけではないはずだ。五右衛門の隣に立つ沙織も、腰を抜かしたように座り込んだのを私は見た。
No.90 謀略を吹き飛ばせー ナディア降臨(帝)
ー 時は西暦2018年より数億年先の地球 忍歴2020年 帝の城
「カラスだってよ。翼竜のみんな!次の地球の支配者はおまえらの子孫だ!」
「喜べ!」
エクスロゲはニタニタして拡声器で叫んだ。
翼竜たちは、ヒソヒソとエクスロゲの話を伝えあってどよめいている。
「ちがーう!!!」
五右衛門が『雷声道の術』の術を使って叫んだ。
耳をつんざくような声がはっきりと、山脈も草原を埋め尽くす両陣の恐竜たちに届いた。
「お前は間違えているんだよ。わたしは、未来の地球がめちゃくちゃになった時代の者だ。」
「お・ま・え・の・せ・い・だ!!!!!!!」
五右衛門は、言葉を短く切ってはっきりと叫んだ。
「エクスロゲ、お前は戦犯として歴史に馬鹿な悪名を刻むんだ。数億年先の地球では、お前の馬鹿な振る舞いを恥じの最大の権化として『エクスチン』と呼ぶ。」
「はあ?意味わかんねーんだよ!」
エクスロゲは地団駄踏んで叫んだ。
「だからな。今、お前のやろうとしていることは間違っているんだ!」
数十万羽のカラスが今度は叫んだ。
耳が痛い。
「数億年先の地球はめちゃくちゃになり、生物が住めない星になった。」
「俺たちは地球を追われた。惑星から惑星に旅をして、住める星を探す羽目になった。」
「元はと言えば、今お前がやろうとしているクーデーターが原因なんだよ!」
空から声が降ってくる。
つんざくような声で耳が本当に痛い。
ふと気づけば、数十万羽のカラスが、数億羽に増えたように見える。
私ははっとして丘にいたはずの沙織を見た。
沙織が立ち上がり、『承継門前の術』の秘術でカラスを増幅させて見せているのだと私は気づいた。
「そんなの関係ねー!俺は帝を殺すんだ!」
エクスロゲは、トリケラトプスの巨体を振り絞って叫んだ。拡声器では、所詮は聞こえたのは周囲数百メートルってとこだなと私は思った。
「ザリガンコのこんちきやろう!」
私はわからずやのエクスロゲに頭にきた。帝にあるまじき発言をしてしまった。
「はあ?」
エクスロゲが目を剥いて激怒した瞬間に、空中にさっとナディアと颯介が現れた。すかさず、トリケラトプス二匹がナディアと颯介を支えて飛んでいる。
沙織と五右衛門が召喚されたのだと、私は気づいた。
「あーら、気だるいわ。」
ナディアはそう言うと、右手から光の光線を出して、激怒しているトリケラトプスのエクスロゲに放射した。
「ビリビリしちゃうけど?」
エクスロゲは骨が見えるほど、身悶えしてのたうち回った。
敵陣の恐竜も翼竜も、怯えて高速で後ろずさった。
忍術ではない異能を初めて見たのだ。訳のわからない魔術師のような人間がいきなり空中に現れて、大将を光線責めにしたのだ。無理もない。
畏敬の念を感じたはずだ。
「お待たせ、帝。遅れてごめんなさい。」
ナディアはにっこり笑って、光線を止めた。
「助かった。」
私はほっとしてナディアにうなずいた。
途端に、氷線でエクスロゲを颯介が氷漬けにした。
「姉さん、どうする?」
颯介が言った。
「さ、さ、寒い」
ブルブル震えるエクスロゲにナディアが言う。
「うふっ!数億年分、吹っ飛ばさせてあげるわ。」
ナディアは首をくるくる回しながら、笑いながら言った。
「耳をよーっくかっぽじって聞きな。お忘れのようだけど、1回だけ大昔に恐竜単独で支配者になった時代があったのよ。」
「そーんなにお望みとあれば?」
「そこに吹っ飛ばしてあげるわ。」
ナディアは美しい顔を天使のような微笑みでいっぱいにして言った。
「まあ、せいぜい楽しみなさい。」
「あ、知っていると思うけど?」
「隕石が落ちて焼け死ぬまでね。」
ナディアはそう言ってニヤッと笑い、フッと指に息を吹きかけて銃をうつまねをした。
「数億年分吹っ飛ばしてあげるわ!」
「じゃあね」
エクスロゲは一瞬で消えた。
「え?」
私は驚愕した。
「数億年分吹っ飛ばして、ザリガンコ・エクスロゲさんは、太古の昔に行かれました。」
「アーメン」
颯介はにっこり笑って言った。
エクスロゲは、どうやら数億年分の時間軸を超えせられたようだ。私は助かったのだ。