38 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<その後 ナディアと颯介の番外編>
大観衆の面前で(颯介)
熱気がすごい。
そこは、10万人ほどの観衆が待ち構えているコンサート会場だった。四方をぐるっと囲まれているような錯覚に陥るほどの人、人、人だった。
「何?ここは?」俺はミランに聞いた。
いきなり日本の保険会社のビルからワープした俺は、大きなコンサート会場のステージ上にいた。
「ごめん。失敗してしまって、今日、この会場でこれからコンサートをする予定のロック歌手が中世ヨーロッパにまだいるんだ。」
ミランは俺にそうささやいた。
「は?」俺は耳を疑った。
「ロンドサ・ザッキースのコンサートがこれから行われるはずなんだけど、彼はまだ中世ヨーロッパの伯爵家にいる。」
ミランは早口でそう言った。
「ミスがあったんだ。ナディア姉さんと僕がミスをした。」
「今、ここには10万人ほどの観客が集まっている。そろそろ開演しなければならないのに、主役は中世ヨーロッパにいるんだ。」
ミランはそう続けて言った。
あの世界的大スターのロンドサ・ザッキースが、中世ヨーロッパにワープしている?
何を言われているのか、全然頭に入って来ない。
俺は、呆然とミランの顔を見つめて、なんとか状況を理解しようとした。
そもそも、俺は徹夜開けだし、頭がよく働いていないのかもしれない。
理解できないのは、俺がおかしいのか?
ミランの話がさっぱり理解できない・・・
「颯介、とにかく詳しいことは後で説明するから。」
「僕とナディア姉さんがロンドサ・ザッキースをここに連れ戻すまで、このコンサートの繋ぎをやっておいてくれる?」
「颯介を連れてきて、そう言うようにナディア姉さんに言われたんだ。」
ミランはたて続けにそう言った。
「もう、どういうことなのか・・・コンサートのつなぎって。」
俺は言葉を失って、途方にくれた。
「ナディア姉さんは何をやればいいって言っていた?」
俺はミランに聞いた。
「『龍者の実と松明草の粉は持っているんでしょう?』とナディア姉さんは言っていた。」
ミランはそれだけ言って、すぐに何か呪文を唱えるポーズになった。
「待て!待て待て待て待て!!」
俺はミランを引き止めようとした。
しかし、ミランは召喚の呪文を告げて、フッと跡形もなく消えた。俺一人を10万人の観衆が待ち構えているコンサート会場に残して。
俺は意味が分からなかったが、条件反射的に龍者の実と松明草の粉をカバンから取り出して、少し舐めた。
はあー、ふーっ!
大きく深呼吸をした。とにかく、ナディア姉さんのお願いは絶対だ。
俺はチームナディアの一員だ。やるしかない。10万人の大観衆の前に一人にされて、腹をくくった。
龍者の実と松明草の粉を使えときたら、あれしかない!!
俺は、覚悟を決めてステージ中央に仁王立ちした。誰が出てきた?という空気で何か観客席がざわさわしている。
俺はちなみに白いシャツにスーツのズボンだ。だって、会社で徹夜で仕事だったんだから。
俺は、後ろに控えたドラマーに合図をした。
ドラマーは、お前は誰だ?と言った目で俺を驚愕の目で見ていた。ま、そうだな・・・
俺は大きく腕を振り上げ、ジャンプをして、思いっきり右手を突き上げた。
会場上空に大きな花火が上がった。
天井が無い会場だ。
一気に観客の歓声がこだまし、会場のボルテージが上がった。
もう一度、俺は、ドラマーに合図をした。今度はドラマーは軽くうなずき返してくれた。
俺は、もう一度、大きく腕を振り上げてジャンプした。
それに合わせて、勢いよくドラムが叩かれ、俺が思いっきり右手を突き上げると右手から光の光線が発射され、花火のように会場上空に美しく広がった。
完全にロック歌手のパフォーマンスのように激しいドラムがついてきてくれる。
俺は、身をのけぞらせて左手を突き上げた。
氷が噴き上げられた。このまま氷が観客の頭上に落ちるとダメなので、右手の光線で氷を溶かした。
会場全体に水しぶきが一気に美しくまかれた。
ドラムの音、俺の繰り返されるパフォーマンスでまるで本物のロック歌手に率いられているように、大観衆は乗ってきた。歓声が上がり、会場はのりに乗ってきた。
すごい、俺は10万人を楽しませている!!!!
観衆は唸りのような大歓声をあげていた。
ここで、俺はプテラを呼んだ。
あ、ちょっと待った。沙織さんが来る?