27 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<3章:時間に広がるさざなみ 辺境の星からの刺客編>
No.76 この惑星の技術ではない だからこそ救える(颯介)
俺は、あれから仕事を終えて直帰すると、飲まず食わず、眠れず、ずっとパソコンに向かって検索をし続けていた。
気になって、気になって仕方がない。伯爵家があったあの国は今のどこだろう?フランスな気がするが、一体どこの地方だろう?しまった。ゲームに召喚されると、言葉が通じてしまうところが仇になっている。何語で俺たちは会話していたのだろう?
イギリスではない。オーストリアではないと思う。ドイツでもない。やっぱりどう考えてもフランスっぽい。俺は眠れない夜を過ごした。ずっとアパートの部屋でパソコンに向かって調べ続けた。伯爵家の空をそもそも飛んだことがなかった。
一体全体、あの村はどこだ?グーグルアースで見たり、フランス中の地図をくまなく放浪した。パソコン上で。
そのまま朝がきた。徹夜で会社に行く。会社に行く電車の中でもスマホで探し続ける。わからない。
伯爵の名前はジュスタン。苗字を知らない。
会社の最寄りの駅で電車降りて、会社まで歩く。スタバが目に入った。そうだ、血筋だ。ガストロノムバックストッカーという苗字は珍しい。伯爵ではないが、中世ヨーロッパの村に住む子供たちがその苗字だった。
良し!
俺は会社に着くと屋上に駆け上がった。屋上から皇居が見える。執務室の上の屋上のベンチに腰掛けて皇居を眺めて、深呼吸をする。
スマホにガストロノムバックストッカーと打ち込んだ。綴りも覚えている。アルファベットでも検索した。
そして、俺は博物館の古い文献を見つけたのだ。フランスのとある村に関する記述があった。
徹夜明けの目に、皇居の素晴らしい景色はしみた。涙が少し出た。これは、一晩中目が疲れているからで、懐かしいからではない。
今の現代にあの伯爵家があるとは思えなかったが、グーグルストリートビューをした。今も、同じ伯爵家が現代の街の中にひっそりと建っているのを見たら涙が込み上げてきたのだ。
ナディアに連絡をしようかと思ったが、やめた。飲まず食わず、眠らず、ひたすら伯爵家の場所を突き止めようとしたのだ。俺がまず現地に行って、どうなっているか確かめてから、ナディアには連絡しよう。
頭の片隅には、ゲームの設計をしたのは地球人ではないという疑いがずっと残っている。中世ヨーロッパの伯爵家にしかけたやつは、この地球を調べる目的だったのではないか。
地球人ではないなら、どこの惑星から来たやつがしかけたのか。俺の勘はときどき妙に当たる。でも、飲まず食わず、眠らず、伯爵家の場所を探し続けたのだから、今の俺の勘はちょっとおかしいのかもしれない。頭がちゃんと働いているのか分からない。
今日は今しかかり中の仕事を仕上げて、それから強行軍でフランスに行ってトンボ帰りする方法を考えよう。仕事はちょうど山に登る手前の谷期だ。3日は休む調整はできそうだ。3日と土日をくっつけて、5日でフランスに行って、伯爵家を確かめたら戻ってくるのだ。
渡航費はクレジットカードだ。貯金はこの前のニューヨーク行きでほぼ消えた。生活はカツカツになるが、まずはフランスの現地確認が俺にとっての至上命題だな。
目の前に広がる広大な皇居の緑を見ながら、数億年先の地球に生きる帝と沙織さんのことを俺は思った。今頃、二人は無事だろうか。帝と沙織さんを追い詰めているのは、違う惑星からしこまれた技術だと思う。
俺は黒より、赤より、ゲームのことをよく知っている。あれはこの惑星の技術ではないと強く思う。だからこそ、俺は帝と沙織さんを救えるかもしれない。
No.77 他の惑星から送り込まれた者(颯介)
俺はそのままその日、仕事を終えてアパートに帰ると、パスポートと着替えを3日分だけ詰めたリュックを持って成田に向かった。
仕事を猛烈な勢いで片付け、その合間にその日の夜のエールフランスで直行便を予約した。ベトナム航空が格安だったが、一刻も早く伯爵家を見てみたかったのだ。一睡もしていない状況だったが、頭はどこかスッキリしていた。
痛い散財だ。間違いない。しかし、どうしてもどうしても現地で伯爵家をこの目で確かめたかった。
成田から出発した飛行機の中で俺は爆睡してしまった。昨晩一睡もしていなかったので眠れて良かった。
機内で目が覚めた時、コーヒーを頼んだ。そして寝ている間に配られた機内食を食べた。
ちょうど窓際の席で窓の外はずっと空だった。こんな高くをプテラノドンは飛ばないなとぼんやり思った時だ。何かがふっと頭に浮かんだ。
そう、あの時だ。帝ではないプテラノドンがゲームに参加した時だ。
俺の頭の中で何かがゆっくり紐づいた。
目が覚める直前、俺は夢を見ていた。夢の中で俺はサバンナでのキャンプの光景を別の角度で見ていた。草原には、皆で張ったテントが見える。空には月が見えて、テントの前には焚き火が見える。そして、俺のプテラ以外の二匹のプテラがいる。そうだ。この前、ミャンマーで会った帝のプテラノドンと違うプテラノドンが二匹いたのだ。あれは一体誰なんだ。
沙織さん以外に、帝の前に、別の二人の忍びがプテラノドンに変身してゲームに参加していた。あれは誰だ。なにかあるとすれば、あの二人に何かある。
つまり、禁じられたゲームに参加する方法を二人の忍びが知っていたのだ。けれども、黒も赤もその二人を標的にはしていない。標的にしたのは、沙織さんと帝のみ。
帝はわかる。赤が狙っているんだろう。現政権をひっくり返すためのクーデターをしかけるのであれば、帝を狙うだろう。それは分かる。でも、沙織さんは狙われて、他の二人については赤も黒もなぜターゲットにしないのだろう。理解できない。
沙織さんが何かをしでかしたとしても、他の二人が無傷で不問にふされるとすればおかしな話ではないか。
他の惑星に関するゲームに参加しても、不問にふされるのは、その疑惑の惑星から送り込まれた者、もしくは赤の秘密結社のメンバー。このどちらかだ。
俺はこのどちらにも賭ける。
おそらく両方だ。俺にとって興味があるのは、他の惑星から送り込まれた者。こいつには何がなんでも合って話をしたい。次にゲームに参加したら、帝にこの話をしよう。今回の俺の勘は当たっていると思う。
俺の勘が正しければ、沙織さんも帝も、俺なら救い出せると思う。
No.78 なりかわり(沙織)
帝について、私と五右衛門さんは建物の影になった部分に入り込んだ。何度も打ち合わせた通り、五右衛門さんが帝になり、私と帝は手をつないでゲームに召喚された。
帝になりきった五右衛門さんはそのまま帝席に戻ったはずだ。あとは、まさみと牡丹と姉の琴乃が人を操る術を帝席の周囲にかけて、ひたすら三人で大観衆をあざむき続けるはずだ。
「沙織!」
「若!」
私と帝は手を取り合って、サバンナに到着した。
そこには颯介とナディアが待っていた。テントが張っている。御意。
私はゲームのどこのシーンかわかった。
素早くあたりを見渡す。危機的状況は見当たらない。だから、召喚にいくばくかの猶予があったのか。敢えて私を颯介は呼び出したとなる。
連続回転で空中を舞い、相手に飛びかかって素手で技を決める。壁も走り、屋根も走り、敵を手裏剣や短剣で成敗する。その技もいらず、なりきる術でプテラノドンになる必要もない。
ナディアも颯介も異能を使う必要もない。
その時私は思った。帝はまだ颯介とナディアの異能を知らなかったはずだ。使わなければならないほどの切迫したゲームの冒険に参加していないし、私も帝に夢中でご説明していなかった。
「話したいことがあるのよ。」
ナディアは私と帝の顔を見て言った。
「お二人を救い出せる方法がある。」
颯介が私と帝に言った。