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おみくじで「大器晩成」と出た夜、母は『えらい遅い大器やなぁ』と笑った。

20代前後の話である。
どうしてそのような話になったかはもう覚えていない。

僕は年賀の花園神社に友人と夜の初詣に向かい、おみくじをひいた。
正確な文面は覚えていないが、神様からのメッセージは非常にClearだった。


『あなたは、大器晩成。あせらず努めなさい』


 今思えば、当たり障りのない、誰にでも通用する言葉だったと思う。
その頃の僕といえば、ふらふらとフリーターで生きており、どうやってこの先進んでいこうか悩みながら生きていた頃だった。
 ドンピシャの言葉だった。

 一人で暮らし始めた安アパートに戻り、おみくじの言葉が繰り返し頭を駆け抜けた。電熱器にかじりつき、本を開いた。この道がどこに続くかは誰にもわからなかった。もちろん、僕さえも。

 久しぶりに実家に帰った際、母と他愛のない話になった。その中で、おみくじのことに話が及んだ。フリーターの息子が言う。自分は大器晩成だと。

 母は一呼吸置いて、皮肉交じりに笑った。


『えらい、時間のかかる大器やなぁ、知らんけど』



中年になりなんとする今、母のこの言葉が折に触れて思い起こされる。

大きな器。小さな器、そして自分の器。
その器で誰が飲むのか、誰が楽しむのか、悲しむのか。

神様の神託にさえツッコミを入れることができる母を誇りに思う。


その言葉こそ、本当は神託なのかもしれない、知らんけど。


富士山

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