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今更『ファン・ジニ』を観た

今回も「今更名作を観るシリーズ」。
ご紹介するのは『ファン・ジニ』です。
ワタクシの母の激推しドラマ。
感想をつらつら述べてきます。

①凄え

もう兎にも角にも「ほえー凄え」みたいな
感想しか出て来んのですよ。
本当にファンジニという女性の一大パノラマ。
名作というか怪作という言い方の方が
ふさわしい。
作品全ての要素が持ってるパワーが凄まじい。
呆気に取られる。

②最強ハ・ジウォン

話の内容も壮絶だけど、
やっぱり特筆すべきは主演、
ハ・ジウォン様の演技でしょう。
演じる、表現するとはこういうことか
とつくづく思わされた。
ここまでくると「名演」とか飛び越えて
「怪演」になる。
とにかくこのドラマは色んなことが
次から次へと起こって、主人公は
それに翻弄され続ける。
だから主人公の表情も次々と変化していく。
その変化の表現がもう途轍もなく素晴らしい。
この人は目で演技ができる女優。
悦びに満ちた目ももちろんだけど、
自害を決意した時の目はもう観てるこっちまでつらくなってくるレベル。
この主人公の感情の変化こそがストーリーにおいてかなり大きな柱であった筈だけど、
それを確かな魅力にしたのは、確実に
ハ・ジウォンの功績だと思う。

③初恋が切なすぎる

個人的ハイライトはチャン・グンソク演じる
ウノとの初恋パート。
あまりにも儚い。
チャン・グンソクがハマり役でしたね。
少年ゆえの愛おしさ、純情さ、儚さを全て
兼ね備えたキャラクターだった。
ウノとジニの間には単なる愛情だけではなく、
それ以外の屈折した感情が全部絡んでしまっていて、それが解けることなくウノは死んでしまう。それによりジニにとってウノとは愛した人でもあり、これから一生抱えていく傷、呪詛のような物になってしまった。
死んでしまった人には勝てない。
序盤も序盤なので、プロローグみたいな
もんだけどそれにしてもインパクトが強すぎ。
死んで終わり、とはならなくて
ウノの死体が乗った台車がジニの前で
なぜか止まり動かなくなるってさ。
死んで終わり、とかだったら「まあ予想してたよね」って思ってしまいそうだけど、
その先まで描いてきたのは見事。
不覚、少し泣いてしまった。
この後、ジニはジョンハンという人と
恋に落ちるのだけど、またその形が違うのも
面白い。ウノとの恋はどこまで行っても
「若い恋」だったけど、ジョンハンとの恋は
「大人の恋」だった。結局上手くいかないけど
大人になったからこその別れ方だった。
「そうか、これも人生なんだな」と
痛感させられる。
またこの後ジョンハンは綺麗さっぱり
登場しなくなるのも絶妙なリアリティーがある。

④取り巻く人々の関係性

ジニとペンムの絶妙な師弟関係。
ジニはペンムに対してどのような感情を
抱いていたのか分かりやすく触れられていたわけではないが、ワタシ個人としては
尊敬と憎しみどちらかしか存在しないような、
そんな関係性ではなかったと思う。
どちらの思いも存在していた筈。
ジニはペンムを誰よりも尊敬するからこそ、
相反してペンムを憎むようになる。
こういう関係性ってジニにとってペンムは師匠というよりは「もう1人の母」に近い存在じゃないの、とも思う。
色んな相反する感情を全部ひっくるめた関係、
それが家族なのだと思うし、
ペンムとジニはそう呼ぶに相応しい関係だと
思う。
そして忘れてはいけないのがメヒャン。
ただのイジワルおばさんには留まらず、
すごく良いキャラクターだった。
ペンム亡き後は師としてジニと向き合う。
その中盤からのメヒャンはほんと
良い味出してた。けっしてペンムに劣るわけではなく妓生としての誇りも気高さも全部
ひっくるめてかっこいい女性だった。

もちろんハ・ジウォンは凄いのだけれど、
それを取り巻く人たちの個性や演技力に
支えられてのこのドラマだった様に感じる。

⑤気になる最終回

実は自分、このドラマ視聴中は楽しみつつも
「どこへ向かっていくんだ?」と心配だった。
あまりにも話の渦が大きすぎて一体何がテーマなのか分かんなくなるのよね。
これは韓ドラあるあるで、話広げすぎて
最終回がグチャグチャになるのはよくある。
で、このドラマはと言うと
よくまとまってた方だと思う。
またなんかとんでもない事件が
起きるんじゃねえか、と
ヒヤヒヤしつつ見てたけど
最後の2話はわりとイベントとしては割と
あっさりしてたね。
これまでの壮絶なイベントを通して、
妓生ファンジニとしての集大成を目指す
シンプルなストーリーに集中。
ジョンハンとか色恋沙汰は完全消滅。
それまでの派手さに比べれば薄味かもしれないけど、自分はこの最終回で正解だったと思う。
あくまでファンジニという女性は芸にしか生きられない。
そしてペンムのセリフである「悲しみで笑う」
「悲しみを糧とする」等のセリフに
上手く呼応したラストだったと言える。
また、最後までジニの母の最期を引っ張っておいたのも良かった。
正直、ジニの母に関しては初っ端から
「絶対コイツどこかで死ぬ」と確信していた。
あまりにも過去が壮絶すぎるし、死相が出まくっていた。と思ったらなかなか死なないのよ
この母ちゃん。ほんとに最後の最後まで
お母ちゃんは死ななかった。
そこが良かった。何が良かったのかは
是非ドラマ本編を観て感じ取って欲しいところ。

⑥美しき妓生の世界の描写

当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、
主人公が妓生なんだから、舞ったりする
シーンとかもめちゃくちゃ重要なわけで。
その妓生の美しくも汚くもある世界が
これでもかと魅力的に表現されていた。
衣装がすごく綺麗なのはもちろんとして、
やっぱり舞のシーンでしょう。
正直、私は韓国の伝統舞踊に関して
全くもって無知であるけれでも、
このドラマはそんな人にもジニの凄さが
わかるように作られていたと思う。
つまり、舞の技術等で美しさを表現していたというよりは、演出等の映像的な魅せ方で美しさを表していた様に私には思えた。
例えば、舞うジニの後ろから陽が差すのを
斜め下から捉えるシーンがあったり、
ジニの舞をみて師匠が今まで誰にも見せたことがない笑顔を見せたりする。
こういう演出があるからこそ、
当時を生きた人たちもしくはジニがなぜ
妓生に魅了されたのか、に物凄く説得力がある。

⑦見てて気持ち良くない

僕はこの作品、素晴らしいドラマだと思うんですが、決して見ていて「爽快!」みたいな感想が飛んでくる事ないと思う。
それくらい人生の闇の部分、切ない部分を
描ききってる。
ウノの棺桶にジニが「私、ちゃんとあなたのこと忘れますから。二度と思い出しませんから。」と泣きじゃくりながら言うわけですよ。
ところが次の回いきなりグデングデンに酔った
ジニが「私が生きてるように見える?
乾杯しないと、バカみたいに失った私の愛にね。」って。おい、全然忘れてへんやないか。
「忘れます!って言って失恋の苦しみを乗り越えて、ジニは強い女性になりました」とかそんな都合のいいようには転がらない。「そんな簡単に忘れられるわけないだろ」って脚本書いた人にジニというキャラクターを介して
釘を刺されてる気がして怖いんだよね。
まじかこのドラマ、と。
ジョンハンだって、結局のところ未練タラタラで廃人みたいになってるし、もうハッキリ言って快感など1ミリもない展開が続く。
意地でもハッピーエンドにしたくない、
制作側の意図が透けて見える。
でもそういう部分をありありと描いたからこそ、私は名作だと思う。
人生というものをこれでもかというくらい
真正面から描き切っている。

⑧気になった所

もちろん良かったところばかりではない。
ギョンドク先生はもうちょっと出番ほしかった。ファン・ジニという天才は妓生の枠を飛び越えた舞い手、芸術家になる。愛する人の志が成就することを願う事でますます輝く存在になっていく。この着地は素晴らしいと思う。
だからこそギョンドク先生とジニの絡みを
もっと丁寧に描いてほしかった。
あと2、3話あればその着地がおそらくもっと
感動的なものになったはず。
若干駆け足だった感は否めない。
あと、最後に披露される「究極の舞」も、
もっと良い演出ができたはず。
いや、良かったんだよ。
自分は感動した。
でも、もっと行けた気がする。
パワーが足りなかった。
それまでの人物描写で魅せてきた
圧倒的なパワーがなかった様に思う。
もっとドカーンとくる感動が欲しかった。

まとめ

まじで呆気に取られるくらいの名作でした。
点数つけるなら94点!
超最高だった。観た後に
「オレは凄いモノを観てしまった!!!」
とかヤムチャみたいな沸々と湧き上がる
感動があります。これは神作特有の感覚ですね。
殿堂入り決定です。
ただ、エンタメ要素がほとんど皆無。
ジニは結局恋も涙を流すことすらも
ままならず芸にしか生きる道を見出せない、
という見方によっちゃバッドエンドなんです。
そういう妙にリアルな、
現実の悲しさ、虚しさに
耐えられる方は一見の価値ありです。

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