0時、雨音を聞く
今日は、月に一回の会食。一年前から続いてる恒例行事。もうそろそろ、貰えるお金だけじゃ私の心も揺らがなくなってしまっていた。
グレーに染まった空のなか学校から帰る。狭いアパートについたらすぐに、狭いベッドに眠るように。
けれど理性は優秀で、私の身体を機械のように操る。操られた私は、未だになれることのない地下鉄に、不相応な傘を持って乗り込んだ。一通り終わるまで、私はマリオネットのままだ。
指定されたお店につく。父の指定する店は飽きないことを考えてか、何店かをローテンションしている。今回は中華料理屋、二回目の来店となる。何度もご飯のためにこのまちにきているが、父のすむ町は、父が住む町以上の何者でもなかった。
名前を告げ、案内された席には小綺麗な格好をした父がいた。父は笑顔でわたしに話しかけてくる。仕事の話だったり、世間の話だったり。
「いや~今日はW杯だな。見たりしてるか?」
「ううん」
「あれは面白いぞー!あ、日本対ドイツが今やってるはずだ。どうなったかな」
父はスマホをとりだしわたしに画面を見せてくる。
「おーー、おーーー!!!すごいぞ!!!日本がドイツに勝った!!!」
「すごいね」
「これは大したもんだ。これからも勝っていけよー!ニッポン!」
5000円貰った。
帰り道は雨だった。予報通りの雨だ。11月の暮れの雨、寒さは刺のように人々を苦しめていく。
持ってきた傘を広げ、駅に向かう。その道ながらの居酒屋からは、W杯の熱狂が漏れ出ている。
叫ぶ彼らは、多分普通のサラリーマン。わたしの父のように、普段はサッカーも好きでもない、ただの飲み屋にいた中年の一人一人だ。
なんだかそれがいやになって、足早に駅へ向かった。
ホームについたときちょうど電車は発車して、雨に濡れたスカートに気づいた。
家のなかにつめたい雨の音が響く。母はまだ帰ってきていない。
寝る支度を整えたわたしは、ようやっと舞台から降りることが出来た。毎月貰う5000円のギャラは、だんだん虚しくなっていく。
時間は零時。風が強くなる。布団の中でTwitterを開く。
トレンドには
W杯
日本勝利
サムライブルー
彼らのようになれたら、と思った。
雨は次の日もやまなかった。